CRAに将来性はあるの?経験者だからこそ分かることを本気で解説してみた

就職活動の段階では、色々な職業の話を聞いてみてもその将来性まではなかなかイメージできないもの。それは、臨床開発職であるCRAについても同様かと思います。

そのような状況でも、色々な職種の中からどの職種になるのかを考えるときにその職種の将来性を考えることはとても重要なことです。

本記事では、CRAの業務を経験した立場からCRAの将来性についてお話をしていきたいと思います。

CRA(臨床開発モニター)の現状

2010年問題や薬価改定など、医薬品業界においては逆風となる話題が多いながらも、新規の治験届の件数を見てみると、毎年100件前後で横ばいに推移しており、右肩上がりではないものの、依然として新規医薬品(効能追加も含む)の開発は活発におこなわれています。

そんな医薬品開発にとって、CRA(臨床開発モニター)はいなくてはならない存在です。

日本CRO協会の2021年(1月~12月)年次業績報告によると、協会所属のCRAの人数は2021年12月末日時点で7,074人(前年+39人)であり、現在もCROの構成職種の中では高い割合を占めています。

しかし、医薬品開発を取り巻く環境も近年大きく変わってきており、今後のCRAの将来性を考えていくには製薬業界全体の動向はもちろん、医薬品開発ではどのようなトレンドになっているかも把握しておく必要があります。

トレンドについてのお話も後々触れていきますが、まずは医薬品、医療機器開発でのCRAの立ち位置から考えていきましょう。

医薬品、医療機器開発でのCRAの立ち位置

医薬品が出来上がるまでの流れとCRAの領域

CRAは、医薬品、医療機器どちらの開発にも携わっているのですが、割合としては医薬品の開発に携わっているCRAの方が圧倒的に多数です。

医療機器のお話と平行して進めてしまうと複雑になってしまいますので、今回は医薬品の開発を想定してお話を進めていきます。

さて、お話の続きです。

医薬品は、上の図でもある通り、非臨床試験、臨床試験で有効性・安全性を確認し、厚生労働省大臣により承認されることで上市されます。

このうちのヒトを対象にして行う臨床試験(つまり治験)に携わるのがCRAです。

第Ⅰ相~第Ⅲ相の治験を詳しく説明すると以下のようになります。

開発相 主な対象 代表的な試験 試験の内容
I相 健常成人 臨床薬理試験 臨床薬理試験単回及び反復投与により、治験薬の忍容性を調べ、予期される副作用の性質を調べる。
その他、治験薬のADME(Absorption:吸収、Distribution:分布、Metabolism:代謝、Excretion:排泄)つまりヒトでの薬物動態について調べる。
II相 患者 探索的試験 第Ⅲ相で実施される試験の用法・用量を調べる。その他、治験薬のADME(Absorption:吸収、Distribution:分布、Metabolism:代謝、Excretion:排泄)つまりヒトでの薬物動態について調べる。
III相 患者 検証的試験 第Ⅱ相のときよりも広い範囲の患者(重症患者も含むなど)を対象に有効性、安全性の検証をより確実にしていくことが目的。

この治験ですが、製薬企業が好き勝手やって良いものではなく、GCP省令というルールで厳しく色々と規定されています。

その他、薬機法やヘルシンキ宣言も遵守して治験は実施されるべきであることから、治験は非常に厳しい規制のもと実施されているものになります。

その中でも、GCP省令には、治験のモニタリングについて、以下のような記載があります。

第21条 治験依頼者は、モニタリングに関する手順書を作成し、当該手順書に従ってモニタリングを実施しなければならない。
2 前項の規定によりモニタリングを実施する場合には、実施医療機関において実地に行わなければならない。ただし、他の方法により十分にモニタリングを実施することができる場合には、この限りではない。

〈第1項〉
1 治験依頼者は、被験者の人権の保護、安全の保持及び福祉の向上が図られていること、治験が最新の治験実施計画書及び本基準を遵守して実施されていること、治験責任医師又は治験分担医師から報告された治験データ等が正確かつ完全で原資料等の治験関連記録に照らして検証できることを確認するため、モニタリングを実施すること。
2 治験依頼者は、適切な訓練を受け、治験を十分にモニタリングするために必要な科学的及び臨床的知識を有するモニターを指名すること。また、モニターの要件を、モニタリングに関する手順書に記載しておくこと。

【GCP省令第21条、課長通知より一部抜粋】

そうなのです、治験ではモニタリングを実施することが必須で、そのモニタリングはCRAが担うことになります。

もうお分かりですね?医薬品の開発にはCRAは必要不可欠ということです。

当然のことながら、製薬会社はどんどん新しい医薬品を開発しなければいつか特許が切れ、会社の売上が激減してしまうので、常に新薬の開発に取り組んでいます(もちろんジェネリック医薬品についても同様に常に開発に取り組んでいます)。

製薬会社が医薬品開発に取り組む以上、CRAの必要性は無くならず、今後も需要が無くなるということは無いでしょう。

需要が無くならいだろうとお話をしましたが、CRAの人数の規模感が変わらないかと言ったらそれはまた別のお話です。その辺りも、後ほど触れていきます。

ここまでは、CRO、製薬メーカーに限らずCRA全体のことをお話してきましたが、実は、製薬メーカーとCROでは、CRAに対する考え方が異なります。

そのため、同じCRAであっても分けて考える必要があるので、ここからは「製薬会社のCRA」と「CROCRA」それぞれの考え方を紹介していきます。

製薬メーカーのCRA

製薬メーカーは、その名の通り医薬品を製造する製造業になります。

基本的には医薬品を開発して販売することで売上を積み重ねていくということですね。

つまり、メーカーのゴールは、医薬品を販売して収益を上げることになるため、CRAに割く人件費はコストとして捉えられますが、この部分がCROのCRAとは大きく異なる部分になります。

メーカーのCRAの場合は、CROのCRAと異なり、将来的にオペレーション側に立ってもらう為の修業として経験するというパターンも多々あります。

その場合は、需要云々というよりも経験値を積むためのものですので、今後もその傾向は変わらない可能性が高いと思います。

その為、環境が大きく変わる可能性があるとしたら自前でCRAを抱えているメーカーということになるでしょう。

モニタリング(つまりCRAの仕事)をCROに委託するか、自前でCRAを抱えるかの選択は、主にはどちらの方が費用対効果が優れているという観点になってきます(もちろん、質に関しても)。

もっと噛み砕いて言えば、自前でCRAを抱える場合と、CROに委託する場合でどちらの方がコスパが良いかということです。

この「コスパ」を考えていくうえで、重要となってくるキーワードが「CRAの稼働率」「パイプラインの豊富さ」です。

具体例で見ていきましょう。

開発品目が多く、パイプラインが豊富にある製薬会社であれば問題は無いのですが、パイプラインが限られていて、モニタリングをあまりやる必要が無いメーカーのCRAはどのような状態だと思いますか?

そうです、やることが無くて暇になってしまっている状態(つまりCRAの稼働率が低い状態)のことが多いです。

そのような場合は、何もせずボーっとさせておく訳にもいかないので、CRAであってもCRA以外の業務を振られますが、小規模なメーカーの場合は他の仕事すらもあまり無い場合もあるのです。

そんなときに、メーカーの偉い人は考えます。

「モニタリングが必要になったらその時だけCRAがいれば良いのになぁ。そうすれば待機させておいて人件費が垂れ流しにもならないからコストが抑えられるのになぁ」と。

そうして生まれたのがCROということですね。

上記のように、メーカーでは、必要になったときだけCROにモニタリングを委託するアウトソーシングが主流となっています。

一般的にメーカーの規模が小さければ小さい程、パイプラインも少なくなってくるため、アウトソーシングをする傾向が強くなっていきます。

その際、メーカー側はCROに業務委託をし、CROのマネジメントが必要になりますので、マネジメントが主な業務となってきます。

当然、CROをマネジメントするのにCRA経験があった方が色々と適切な指示を出して管理がしやすいため、先ほども少しお話に出しましたが、新卒の方を中心にCRAを経験してもらうということですね。

パイプラインが豊富であれば、自社でCRAを抱えた方が逆にコストが安くなるため、外資系のメーカーを中心にCRAを比較的多く抱えているメーカーもありますが、内資のメーカーはCRAの採用が少ない傾向にあります。

CROは様々なメーカーからの仕事を受託しているため、「パイプラインが豊富な状態」を作り出すのに適した環境となっており、業務形態としてCRAとの相性も良いと言えます。

CROのCRA

製薬メーカーのCRAの募集枠が非常に少ないのに比べ、CROのCRAは新卒でも比較的広い枠で募集している傾向にあります。

「CRAになりたい」ということであれば、競争率の観点からも製薬会社よりCROを狙ってしまった方が可能性は広がってきます。

CROは製薬メーカーと比較して、自社製品のみではなく、色々な製薬メーカーの治験を担当することとなります。

もちろんCROの状況にもよりますが、しっかりと案件を獲得している状況であれば、待機期間はあまり無くプロジェクトにアサインされることとなります。(大手のCROであれば、案件がありすぎてむしろ製薬メーカーからの依頼をお断りしているということもあるので、それだけ案件が豊富なところは豊富です)

製薬メーカーにとってのCRAはコストであったのに対し、CROにとってのCRAは収益に直結する稼ぎ頭という扱いになります。

CROは、製薬メーカーに質の高いサービス(医薬品の開発)を提供するために質の高いCRAの力を提供するというサービス業であるため、CRAへの考え方が製薬メーカーとは全く異なってくるという訳ですね。

ここまで来れば分かってきたかと思います。

そうです、CROにとってのCRAは稼ぎ頭なので、とにかく欲しい!

優秀な人材(CRA)がいっぱいいるということは、それだけCROの売上を上げることができるので、CRAの需要は製薬メーカーに比べると非常に高いと言えます。

ですので、CRAの中途採用はやはりCROの求人数の方がメーカーよりも圧倒的に多くあり、今後もその状況はしばらく続くのではないかと思います。

CROのCRAにとっては、依頼者(製薬会社)はお客さんになるので、場合によっては製薬メーカーよりも弱い立場となることもあるのですが、製薬メーカーからはモニタリングのプロとして依頼をされているわけですから、製薬メーカーにとってもCROのCRAは欠かせない存在と言えます。

先ほど、製薬メーカーはアウトソーシングが主流となっているとお話しましたが、それを裏付ける面白いデータがあります。

下に貼ってあるのは、日本CRO業界の資料の一部抜粋で、日本CRO業界に所属しているCROの売上のトータルになります。

2021年CROの業務別売上

こちらの資料からも分かる通り、CROの業務の中でも「モニタリング」が占める割合が大きい、つまりCRAがCROにとって稼ぎ頭になっていることが分かるかと思います。

2020年はCOVID-19の大流行によって治験がストップしてしまうという不測の事態があったため、合計売上高は例年よりも特に低かったと想定されますが、2021年には過去5年間の中で最も売上が高く、モニタリングの売上も横ばいではありますが、高い水準をキープしていることが分かります。

もし今後、”CROへのアウトソーシングが減り、製薬メーカーの自前のCRAで治験を回す”というやり方が主流になってきた場合は、モニタリングの売上高が減少に転じる可能性が非常に高いです。

実データから見る限り、直近ではその兆候は認められる、依然としてアウトソーシングが主流であると考えられますが、今後もこのモニタリングの売上高の推移を注視しておく必要がありそうですね。

COVID-19の影響

2020年は、新型コロナウイルスによってCOVID-19が蔓延してしまい、医薬品開発への影響も大きく出てきてしまっています。

具体的には、コロナの影響で医療機関への訪問規制がかかってしまい、治験の進行が不可となってしまい、中断や中止をしてしまう治験が多く発生してしまいました。

当然CRAも影響を受けました。

CRAは本来、医療機関に訪問をして治験が適切に実施されているかを確認する業務がありますが、その業務に制限がかかってしまったのです。

1度に医療機関に訪問できる人数も絞られてしまったため、新人を同行させて一緒に現場で学ぶという機会がほぼ無くなってしまっているのが現在の状況です。

しかし、このような状況下でも医薬品を待ち望んでいる患者さんは世界中に多くいらっしゃいます。

なので、業界全体としてはこのような状況下でも治験を中断させず、高い質を保てるような、Remote MonitoringDecentralized Clinical Trial(DCT)などの手法を積極的に導入する動きとなってきています。

RBMの仕組みが導入され、本格的に稼働していくことになれば、CRAは今までよりも出張の件数が減ったりと内勤業務側に仕事内容がシフトしていくかもしれません。

その他、CRAの採用については、会社全体の経営状態からどれだけの人数を採用するかを決めていくので、COVID-19蔓延による業績への影響が不透明な状態では、なかなか積極的に新卒採用に踏み切れない企業もあるかもしれませんが、物凄く採用が減っているかというとあまりそのような印象は受けません(あくまで私の感覚ですが…)。

CRAの将来性について

CRAのキャリアップについて考えてみる

医薬品開発業界全体として、開発の迅速化とコスト削減という流れになってきていると感じます。

というのも、医薬品開発の難易度は年々高難易度化してきている傾向にあり、時間もコストも以前と比べると非常にかかってしまっている状況です。

そのような状況の中で、今の医薬品開発の場では、DDC(Direct Data Capture)やブロックチェーン技術の応用やQuality by DesignやDecentralized Clinical Trial等の話題で盛り上がっている一方、これらの技術が発展していくことは、CRAの医療機関での仕事が減ることを意味しています。

1つの治験に対しての訪問頻度が下がるということは、それだけCRAの人数が少なくなったとしても仕事が回せるということなので、中長期的に見ればCROのCRAを中心に人数は減少に転じていくのではないかと予測しています。

ただ、だからといってCRAに将来性が無いということではありません。CRAとしての経験は、CRA以外の仕事においても重宝する場面が多くあります。

その為、私個人の考えとしては、CRAで現場での経験を積みながら、将来的に他職種にもチャレンジできるようにCRAのテリトリーよりも、もう少し広めの範囲の勉強を少しずつ進めていくのが良いのではないかなと感じています。

もちろん、CRAの道を極めるのも良いと思いますが、今後はより一層リスクヘッジの必要性が増してくる局面だと思っています。

まとめ

今回はCRAの将来性についてまとめていきました。

昨今は、薬価改定が続いており、このままの状況が続くと、製薬メーカー各社はより厳しいコスト削減を強いられていくことが予測されます。

当然、コストカットの目は臨床開発にも向けられることになるため、コストの多くを割いている治験のマネジメントについても大きく見直される可能性もあります。

しかし、どんな将来になったとしても“CRAとしての経験”の需要は無くならないものと信じています。

製薬業界は環境変化が激しい業界ですが、その中でも生き残れるスキルを身に付けていくことが重要なのかもしれません。

最後に、もしこれから臨床開発職を目指している方が読んでいて分からないことがありましたら、Twitter @Chikennochikaraへお気軽にご連絡下さいね。