CROの需要は今後も拡大か?将来性について語ってみた

近年医薬品開発業界においてその存在感が日に日に増しているCROですが、今後の将来性についてどうなのでしょうか?

この記事では、CROと製薬メーカーどちらにも所属した経験がある私の考えを紹介していきたいと思います。

医薬品開発業界は日々進化を続けており、その進化にしっかりと着いていくことが出来るかが大きなポイントです。

最近の医薬品開発の現場のトレンドにも触れながらCROの将来性について一緒に考えるきっかけになれば嬉しいです。

CROは製薬会社から業務委託を受ける会社

CRO(開発業務受託機関:Contract Research Organization)とは、医薬品の開発業務において、製薬会社から様々な業務を受託する会社になります。

最近の製薬メーカーでは、コスト削減の流れで、自前で持つ部署を最小限に留めているケースも増えてきており、特にモニタリングについてはCROへ委託をするということ(いわゆるアウトソーシング)が目立ってきました。

そんな需要が増しているCROですが、実は治験のルールを規定しているGCP省令の中にも以下のように記載されています。

治験の依頼をしようとする者は、治験の依頼及び管理に係る業務の全部又は一部を委託することができる(当該受託者は開発業務受託機関とも呼ばれる。)。

ただし、治験計画の届出及び規制当局への副作用等の報告については、当該業務を、開発業務受託機関に委託することはできない。また、治験の依頼及び管理に係る業務を委託する場合においては、治験の依頼をしようとする者と当該受託者たる開発業務受託機関は文書により、委託業務の範囲、委託業務の手順に関する事項、治験の依頼をしようとする者が手順に基づき委託業務が適正かつ円滑に行われているかどうかを確認することができる旨等について記載した文書により契約を締結すること。

(GCP 第12条 課長通知より抜粋)

ここで書かれている「治験の依頼をしようとする者」というのは、分かりやすく言うと製薬メーカーや医療機器メーカーのことです。(一部、医師主導治験というものがあり、医師を指す場合もあります)

つまり、GCPでも業務の委託について明確に触れており、メーカーがCROに業務を委託するというのは今や一般的になってきていることが分かるかと思います。

そのため、医薬品の開発業務(特にCRAなど)の仕事に就きたいと思っている場合は、製薬会社ではとても狭き門になってしまっているため、CROに就職することを狙っていった方が現実的と言えます。

新卒での就活生は、「CRO」という会社にあまり馴染みが無いためか、製薬メーカーへの就職を希望することが非常に多い傾向にありますが、上記の理由より採用は極僅かとなることが多く、とても難易度が高くなるでしょう。

ちなみに、こちらは、就活が解禁から約2ヶ月後に就活生に志望先を調査した結果になります。

22卒の就活生も、就職活動初期の段階ではメーカー志望の方がかなり多くいるのが分かりますね。

CROの将来性は規模によって違う

「CROよりも製薬メーカーに就職したい!」と思っている就活生の方も多いかと思いますが、私個人の現時点での考えとしては、CRO業界はより一層淘汰が進んでいくと予測しています。

というのも、日本国内では薬価の改定や特許切れなどの影響で収益が低下してきているため、製薬メーカー各社は、今後更にコストダウンをしていなければいけない状況に向かう可能性が高いからです。

その為、このような状況を生き残っていくにはCRO各社は、質はもちろんのこと、コストを意識したサービス提供がより求められることになるでしょう。

ここでは、大手~小規模のCROの将来性について考えていきたいと思います。

大手のCRO

大手CROの将来性

CROは主には、開発業務の中でもモニタリング業務を受託するという割合が多く、モニタリング業務の受託に特化したCROが数多く見られます。

後ほど紹介するCROの「業務別売上の推移」でもモニタリング業務が売り上げのほとんど占めていることが分かります。

そのような中、大手CROでは、モニタリングに留まらず、非臨床試験、統計解析、データマネージメントや薬事など、非常に広い範囲で業務を受託しています。

“医薬品開発ことならなんでも任せて下さい!”というようなスタンスで、トータルソリューションとも呼ばれています。

製薬メーカー側からすると、モニタリングはA社、統計解析はB社、DMはC社と、色々なCROに業務を委託するとその分、それぞれの会社と連携を取ることが難しくなってくるので、「モニタリングもDMも統計解析もまとめてA社」とする方が管理もかなり楽になるので、ニーズに答えることが出来るというわけです。

これは、考え方を変えれば、それぞれの会社と契約を結んだり、マネジメントをするのに比較して時間(工数)も節約することが出来るので、メーカーにとってもCROにとってもコスト削減に繋がっていると見ることもできます。

また、もう1つとても大きな強みがあります。

それはプリファードベンダーを複数持っているという点。

プリファードベンダーとは、簡単に言うとお得意様契約みたいなものです。

製薬メーカーには、それぞれのやり方やルールが規定されており、CROに業務を初めて委託する場合は、そのやり方やルールを覚えてもらうところからスタートする必要があります。

製薬メーカー側としても、毎回違うCROに受託をした場合、毎回やり方やルールを説明するのがとても大変で、高いクオリティの業務をしてくれるかも分かりません。

そんな時に、お得意様制度であるプリファードベンダーをCROと結んでいると、「いつもと同じようによろしく!」と言えば分かってもらえるというような感覚になるというイメージです。

通常、CROが案件を受託するときは、製薬メーカーが募集を出して、CROが募集に応募して、コンペで発表をして、他のCROに勝てたら受託することが出来るのですが、プリファードベンダーを結んでいると、コンペ無しで案件を受託できるので、安定して案件を受託することが出来るというメリットがあります。

CROにおけるプリファードベンダーのイメージ

大手CROは、トータルソリューションとプリファードベンダーの両方を持っていることが多いため、今後も製薬メーカーからの需要が減ることが少なく、将来的には有望であると言えます。

更に言えば、後程触れますが、医薬品開発業界の最新トレンドにも積極的に取り組んでいることが多く、常に進化を求められる医薬品開発業界において生き残る確率が格段に高いと私は思います。

中堅のCRO

中堅CROの将来性

先ほどお話をしたトータルソリューションは、とてもコストがかかることであるため、中堅のCROの場合、モニタリング業務の受託(CRAの業務)に特化していたり、モニタリング業務の受託にプラスアルファでDMの業務の受託もしていたりというパターンが多いです。

プリファードベンダーの契約に関しては、いくつかの製薬会社と結んでいるというCROもありますが、もちろん大手程多くはなく、あったとしても数社程度という会社が多いです(プリファードベンダーの契約は全く無いという会社も中堅では多いです)。

中堅のCROの目標としては、新規のお客さん(製薬メーカー)に気に入ってもらって、プリファードベンダー契約を結び、コンペをせずに案件を安定して受注することなどが挙げられるかと思います。

そのため、“質が高い仕事”を提供して製薬メーカーとのプリファードベンダー(またはリピート)を目指す必要があるということです。

私個人の意見ですが、中堅のCROの将来性は、この“質が高い仕事”を提供できればあると言えますし、提供できなければ無いと思っています。

中堅のCROの会社説明会に行く際には、“質が高い仕事を提供できる可能性があるか”について考えてみると良いでしょう。

と、いきなり言われても少々分かりにくいと思いますので、例を紹介しておきましょう。

例1

質が高いサービスを提供するには ⇒ 質が高い社員が必要 ⇒ 質が高い社員とは質が高い教育を社内で受けている社員 ⇒ つまり、教育制度がしっかりと整っているかどうかに着眼する

例2

案件をいっぱい受注できるCROに将来性がある ⇒ 案件を受注するには社員の数が必要 ⇒ 社員が辞めない会社は社員の会社に対する満足度が高い ⇒ つまり、福利厚生が充実していたり、フレックスが導入されていたり働きやすい環境かどうかに着眼する

中堅は、発展途上のため、弱い部分もあるかと思います。
ただ、その弱い部分についてどれだけ真剣に考えて改善していこうか考えているかでその将来性も全く変わってくると言えるでしょう。

中堅のCROについては、現在提供しているサービスについて他社と差別化できるような仕組み(質やコストなど)あるいは、手広いサービスを提供できるよう、最低でもDM、統計解析、MWの部門は整えていく必要があるのではないかと思います。

小規模のCRO

小規模CROの将来性

小規模のCROは、社員が少なく、受託業務割けるリソースの数も限られているため、完全にどこかの業務に特化した形態を取っている場合がほとんどです。

また、小規模のCROの場合は、元製薬メーカーの方や大手CROから独立をした方が経営をしていることがあるため、その人脈で案件を受託していることもあります。

裏を返せば、その方(大体社長)がいなくなってしまった場合には一気に窮地に追い込まれる可能性も出てきます。

かなり限られたリソースでCRO業界の中で生き残っていくには、利益率が低く、大手CROが敬遠するような案件を拾っていくか、かなりマニアックな経験(例えば、最近私が着目しているのは医療用アプリの開発など)を持っていて案件を持ってくるかになります。

前者の場合、利益率が引くということは会社の儲けも少なくなるので、必然的に社員の給料も安くなってしまい、きっかけとしては良いものの、その状態が長く続くのは好ましい状況とは言えません。

一方、小規模であってもマニアックな経験を持っていれば、万が一そのCROの経営が厳しくなったとしても、その特殊な経験に需要があれば、中堅や大手のCROと合併をして生き残れる可能性も残されています。

そのため、小規模のCROは、何か特別な経験や技術を持っている場合であれば将来性があるかもしれないと言えるでしょう。

実際のデータを読み解く

それでは、次にCRO業界の実際のデータを見ながらCRO業界全体の将来性について考えていきましょう。

ここでは、日本CRO協会の「年次業績報告」のデータを見ながら軽く解説をしていきます。

なお、日本CRO協会の資料は、協会の会員であるCROのデータのみ反映されたものになりますが、大手や中堅は比較的会員となっているため、CRO業界全体の傾向を見るのであれば問題無いかと思います。

売上と従業員数の推移

CROの総売上高と従業員数の推移

引用: 一般社団法人日本CRO協会「2019年次業績報告」

CROの売上は、製薬メーカーの医薬品開発品目の推移に依存します。

2017年以降、従業員数、売上高ともに横ばいになっていますが、製薬メーカーの開発品目も同時期に横ばいになっており、製薬メーカーからの需要には変化が無いように思われます。

つまり、現時点ではCROの需要は減っていないということが分かります。

売上高の業務別推移

CROの合計売上高の業務別の推移

引用: 一般社団法人日本CRO協会「2019年次業績報告」

こちらは、売上高に占める業務別の推移になります。

モニタリングが圧倒的に大きな割合を占めており、次いでDM/統計解析となっています。

モニタリングが圧倒的な割合を占めているのは、その他の業務について製薬メーカー側が部署を持っており、「モニタリングだけ委託したい」というニーズが比較的多いことが原因と考えられます。

比較的小さめな製薬メーカーの場合、モニタリング、DM、統計解析など全部ひっくるめて委託をしますが、大手の製薬メーカーになると、モニタリングのみ委託というパターンも結構あったりします。

モニタリングのみを受託するというパターンも多いのですが、売上高に占める割合が大きいのは、受託の金額が高いこともあります。

CROにとっては、モニタリングをするCRAが稼ぎ頭になっていると言えます。

その傾向は、2015年から変わっていないのですが、2018年~2019年にかけては減少に転じています。

実は、医薬品開発業界の最近のトレンドの1つとして、「開発の迅速化」が大きなテーマになっています。

「開発の迅速化」を達成するために、RBM(Risk Based Monitoring)やブロックチェーン技術の応用やDDC(Direct Data Capture)などが広がってきています。

これらの技術や手法の浸透は、結果的にCRAの需要を減らすことにもなるため、今後CRO各社もその流れに対応した対策が必要になってくるかもしれません。

具体的には、モニタリングにかなり依存をして売上げを確保していたCROは、今後は売上の低下に備え、新しい対策を打つ必要があるということです。

CROが製薬メーカーから望まれていること

CROは、製薬メーカーから業務を受託してサービスを提供するため、サービス業の部類に入ります。

ということは、CROに求められているのは顧客満足度、つまり製薬メーカーからのニーズに答えることになります。

製薬メーカーからのニーズに関しては、色々あるかと思いますが、今は製薬メーカーの立場にいる私から考えてCROに対して望むことを記載していきます。

メーカーがCROに望むこと

●質の高い納品物の提供
●豊富な知識による提案
●価格
●迅速さ

これだけかと思うかもしれませんが、この4点でかなりの割合を占めると思っています。

この中で、「豊富な知識による提案」について、少し詳しくお話しようかと思います。

豊富な知識による提案とのことですが、製薬メーカーにいると自社製品を扱っているため、どうしても知識に偏りが生じてしまいます。

例えば、糖尿病の薬を主に専門にしている製薬メーカーの場合、糖尿病に関する知識は豊富ですが、消化器に関する知識はあまり持っていない場合があります。

ある製薬メーカーが消化器の薬を開発しようと企画したときに、社内にエキスパートはいませんが、色々な製薬メーカーから医薬品開発を受託しているCROであれば、消化器についてのエキスパートが所属している可能性があります。

そのようなときに、消化器のエキスパートが所属しているCROに開発を委託して、何か困ったときにアドバイスを貰えると製薬メーカー側としてもとても嬉しいということです。

また、医薬品業界も日々変化を続けていますが、色々な製薬メーカーと関りがあるCROは、その変化について実務を通して敏感に感じとることが出来ます。

そのようなトレンドの変化を熟知している存在(CRO)は、製薬メーカーにとってもやはり価値のある存在となります。

まとめ

CROは、製薬メーカーでは得ることのできない知識を得ることが出来たり、色々なノウハウを知っていたり、製薬メーカーのコストを削減したりと製薬メーカーにとっても欠かせない存在であるのは間違いありません。

逆に、それらのサービスを製薬メーカーに提供できなくなってしまったときにそのCROはどんどん廃れていってしまう可能性が高いと思います。

CROへの就職を考えている場合は、製薬メーカーからのニーズに対して具体的にどのような対策をしていたり実績が出ているのかを確認して、それが本当に今後も効果がありそうなのかをしっかり考えることがとても重要となるでしょう。