
未経験から治験業界への転職を考える時に候補に挙がってくる治験コーディネーター(CRC)。薬剤師や看護師や臨床検査技師から治験コーディネーターを目指す方も多くいます。
今回は薬剤師から治験コーディネーターを目指す時に知っておいた方が良いことをまとめていきたいと思います。
●薬剤師から治験コーディネーターになる時のメリットとデメリット
●薬剤師の経験がどのように活かせるか
治験業界でかれこれ10年以上働いていまのりす
薬剤師から治験コーディネーター(CRC)になる人はあまり多くはない
こちらは、日本SMO協会に所属している治験コーディネーターの医療資格の保有割合になります。
こちらの表からも分かる通り、治験コーディネーターは約70%の方が医療資格保有者で転職して治験コーディネーターになる方がかなり多くいたりします。
「医療資格なし」も26.4%と多いのですが、この中にはMRとSMOに新卒入社したした社員で構成されています。
それでは薬剤師はというと…
全体の4.6%と割合としてはかなり少ないことが分かるかと思います。
臨床検査技師や看護師から治験コーディネーターになる方は多いのに薬剤師は少ない。なぜでしょうか?
その答えは治験コーディネーターのお仕事を見ていくと少しずつ分かってきます。
治験コーディネーター(CRC)のお仕事
治験コーディネーターは、医療機関で治験が円滑に行えるように調整・準備をしたり治験に参加されている被験者さんの対応をしたりする業務がメインになります。
勤務先は、医療機関(病院やクリニックなど)になりますので、医師やその他の医療スタッフとのコミュニケーションが欠かせません。
そのような特徴もあるため、未経験から治験コーディネーターに転職する際には臨床経験がある医療資格保有者の募集がほとんどになります。
治験コーディネーターの詳しい業務内容は、治験コーディネーター(CRC)とは何をする人?仕事内容や適性をご紹介!の記事で紹介をしています。
そして、「治験コーディネーター(CRC)」には実は「院内の治験コーディネーター(院内CRC)」と「SMOの治験コーディネーター」があります。
先ほどから「SMO」というワードが出てきていますが、これは医療機関から治験コーディネーター業務や治験事務局業務の委託を受けている会社のことを指します。
大手SMOには、株式会社EP綜合やシミックヘルスケア・インスティテュート株式会社などがあります。このような感じですね。
出典:株式会社EP綜合
院内CRCは、病院のスタッフとして治験コーディネーターをしていますが、一方でSMOは会社に所属をしているため、病院で仕事をするものの病院のスタッフではなく会社員ということになります。
ほとんどの場合は、未経験から治験コーディネーターを目指す場合はSMOに転職をすることになりますので、治験コーディネーターの転職活動を始めようと思っている方はSMOの位置付けも覚えておくと良いですよ。
このように治験コーディネーターは病院内で働くことから、普段から病院内で働いている看護師さんや臨床検査技師さんからすると馴染み深い環境でお仕事ができるという理由からも治験コーディネーターになっている方が多いのだと思います。
一方で、薬剤師の場合は調剤薬局から転職をする場合、普段院内でお仕事をしている訳ではないので主に院内でお仕事をする治験コーディネーターが選択肢から外れることもあるようです。
逆に、病院薬剤師であれば院内にいますので調剤薬局の薬剤師よりも病院で働くことへの抵抗感が少ない傾向にあります。
ではでは、治験コーディネーターという選択肢を外した薬剤師はどこに転職をしているのでしょうか?
その辺りをお話していきます。
臨床開発モニター(CRA)という働き方
治験のお仕事は、大きく分別をすると「メーカー側」と「医療機関側」の2つに分けることができます。
治験コーディネーターは、医療機関側でお仕事をする職業でしたね。
では、臨床開発モニターはというと、この職業はメーカー側でお仕事をする職業になります。
メーカー側も、「製薬メーカーのCRA」と「CROのCRA」のように同じ臨床開発モニター(CRA)でも立場が異なり、未経験からの中途入社の場合はCROへの転職がほぼ全てです。
臨床開発モニターは、施設で適切に治験が実施されているかを確認するモニタリングという業務と施設で円滑に治験が実施できるように問い合わせ対応や症例進捗管理や治験の説明(プレゼン)などをするお仕事になります。
治験コーディネーターで年収1000万円は可能か?キャリアパスを考えてみたの記事で紹介をしましたが、年収面を考慮して治験コーディネーターよりも臨床開発モニターを選択される方も多い印象です。
ちなみに、CROは新卒の約半数は薬学部卒の方で中途の方を見ても大体が薬剤師かMRからの転職者になっています。
会社によって若干の偏りはあるかもしれませんが、いずれにせよ薬剤師からの転職者は多いことには変わりありません。
主に病院で働くか、それとも主にオフィスで働くかは大きな違いだと思いますので、みなさんの向き不向きを考えた上で考えてみると良いと思います。
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薬剤師から治験コーディネーターになる時のメリットとデメリット
薬剤師から治験コーディネーターになる際のメリットやデメリットについて紹介をしていきたいと思います。
私自身も何度か転職を経験していますが、転職をする際はメリットだけではなくしっかりとデメリットも把握しておくことが重要です。
ここでは、メリットとデメリットという両側面から考えてみたいと思います。
メリット
●患者さんのカルテや検査データを見る仕事ができる
●比較的休みを取りやすい
●薬剤師より立ち仕事が少ない
治験コーディネーターになるためには、SMOへ転職することが一般的ですが、SMOは全国に支店を持っていることも多く地方に住んでいた場合でも地元で働ける可能性が高いという魅力があります。
もともとも東京や大阪などに住んでいる場合にはあまり関係がないかもしれませんが、その他の場合、治験コーディネーターではなく臨床開発モニターになろうとしたら東京や大阪まで通える範囲内に引っ越しをしなければいけないことも多いです。
その他、調剤薬局の薬剤師の場合は患者さんの電子カルテの記載や検査データなどを見ながら仕事をすることはないと思いますが、治験コーディネーターは被験者さんの情報を確認する必要があるため、電子カルテや検査データを見ることになります。
薬学部で習ってきた知識が活かされるという意味でその点でやりがいに感じる方も多いようです。
また、治験コーディネーターは最も被験者さんから近い位置にいますので、被験者さんとのコミュニケーションが取れるという点もやりがいに繋がっているというお話をよく聞きます。
デメリット
●将来的な年収も薬剤師より低い可能性がある
●人間関係の問題は付きまとう
●製薬メーカーへの転職はかなり厳しい
年収事情は気になる方もかなり多いのではないでしょうか。
厚生労働省のデータによると治験コーディネーターの平均年収は約423万円、薬剤師の平均年収は約580万円ですので大きな差があります。
このことからも治験コーディネーターへ転職した場合には年収が下がる可能性が高く、その点に抵抗感が強い方が多い印象です。
また、将来的なキャリアパスを考えた時に「製薬メーカーへのステップアップ」を考えている方が一定数いるので、もしそのようなキャリアパスを描いている場合は臨床開発モニターの方が近道だと思います。
臨床開発モニターのキャリアパスについては【CRAのキャリアパスは意外に広い!?】CRAのキャリアプランについてパターン別にご紹介の記事にまとめてありますので詳細はそちらをご確認下さい。
メリットとデメリットをそれぞれ見比べてメリットの方が上回っていれば治験コーディネーターを、デメリットの方が上回っていれば臨床開発モニターなどを転職の視野に入れてみるのが良いかと思います。
薬剤師の経験や知識が治験コーディネーターで活かされる場面
薬剤師としての経験は治験の業界でも活かすことができます。
経験が活かせる場面は色々とあるのですが、本記事ではその中の一部を具体例を出しながら紹介をしていきます。
治験薬の作用機序の理解
治験を施設で行う際にはまず始めに治験の概要が臨床開発モニターによって説明されます。
その中には当然、治験薬の作用機序についてのお話もあります。
そうです、この作用機序の理解は看護師や臨床検査技師など医療資格を持つ中途の方は他にもいますが薬剤師が一番有利であることは容易に想像できますよね。
新規の作用機序の治験薬も多くありますが、薬剤師としての経験がある場合、既存の作用機序とどのような点が異なり、どのような点でメリット、デメリットがあるのかの理解が早いです。
治験薬のメリット、デメリットの理解
例えば、タケキャブを治験薬として開発する際には、タケプロンとの違いを理解する必要があります。
夜間の胃酸分泌抑制、遺伝子多型、受容体への結合が可逆的なのか非可逆的なのか、可逆的な結合であるP-CABの場合、なぜ非可逆的なPPIよりも胃酸分泌抑制能力が高いのか、どういうメカニズムで何が起きているのか等々…
既存の薬剤(ここではタケプロン)のことを知っていれば、新しく開発している治験薬(ここではタケキャブ)のメリットやデメリットも理解しやすいですよね?
これが理解できていると、医師とのディスカッションの質も上がりますし、被験者さんに同意説明をする時にも説得力のある説明をすることが出来ます。
被験者さんへの同意説明
これは被験者さんの立場を想像してもらえると分かりやすいと思います。治験に参加する患者さんの気持ちになって読んでみて下さい。
世間一般からすると「治験」という言葉は知っていても詳しく知らない方は多いと思います。
先生から「治験に参加してみないか?」と言われて、「はい」とは言ったものの、やっぱり不安が残る方も多いはず。
「私はどのような薬を飲まされるのか」、「副作用は大丈夫か」、「今までの薬と何が違うのか」などなど、被験者さんとしては不安に思っている方もいます。
そこに、薬にとても詳しい元薬剤師のCRCさんが患者であるみなさんに分かりやすく治験薬や今までの薬との違いを説明してくれたらどうでしょうか?
私なら少し安心すると思います。
逆に、質問をしたのにCRCさんがオドオドしていたら「大丈夫かな…?」と不安になりますし、最悪の場合は、「やっぱり治験止めておきます…」となってしまうかもしれません。
元薬剤師としての魅力
調剤薬局の薬剤師さんの場合、病院内でバリバリ働いていた看護師さんや臨床検査技師さんと比べると施設内のコミュニケーションという面では引きを取ってしまうかもしれません。
しかし、上でも説明をしたような薬学的な知識は間違いなく一番持っているはずですので、その強みを活かすことで十分にカバーできるのです。
今回は薬剤師→治験コーディネーターの転職を想定してお話をしましたが、臨床開発モニターでも薬剤師としての経験や知識を活かす場面はいっぱいありますよ!
まとめ
今回は薬剤師から治験コーディネーターへ転職する場合について考えていきました。
薬剤師から治験業界に転職を考えている方からの連絡もTwitter上でよく頂きますが、薬局内という狭いコミュニティーでの人間関係(特にお局がいた場合…)や患者さんの臨床検査値やカルテデータなどが見れないため、国試などで勉強をしてきたことが活かせないなど色々な思いがあり、転職を決意された方を見てきました。
治験業界、特にCROでは薬学部出身者が半数以上を占めている会社も多いので薬学部出身者のキャリアパスの1つとなっているとも言えます。
治験コーディネーター(CRC)が良いのか、それとも臨床開発モニター(CRA)が良いのかなど色々吟味してみなさんに合うと思う職種を選んでみてもらえたらと思います。
治験業界への転職については、【完全版】未経験から治験業界に転職するための戦略まとめの記事(近日公開予定)で情報を網羅できるようにまとめていきますので、転職を目指している方はじっくり読み込んでみて下さい。
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