2021年12月24日に旧東証マザーズに上場したサスメドですが、2023年2月15日についに治療アプリ第1弾として「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」の薬事承認に至りました。
治療用アプリ以外にも大きな魅力がある同社ですが、現時点の情報を医薬品開発者目線から分かりやすく解説をしていきたいと思います。
治験業界でかれこれ10年以上働いています。Twitterのフォロワー3,000人超え。魅力や課題を分かりやすく解説します。
※本記事は株の売買を推奨するものでは御座いません。投資は自己責任のもとお願いします。
サスメドの事業概要
私のフォロワーさんは医薬品開発のプロがほとんどですが、本記事は一般の方にも分かりやすいように概要をかいつまんで簡単に説明をしていこうと思います。
それではまずは事業内容から見ていきましょう。
サスメド社目論見書より一部抜粋
サスメドには「DTxプロダクト事業」と「DTxプラットフォーム事業」という大きく分けると2つの事業があります。
それぞれの事業について簡単に説明をしていきます。
DTxプロダクト事業
「2023年6⽉期第2四半期決算説明資料 」より抜粋
DTxプロダクト事業は、いわゆる治療用アプリの販売で2023年2月15日に承認された「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」が第1弾目の製品ですね。
不眠障害用アプリの開発・販売については、2021年12月27日に「不眠症治療用アプリに関する塩野義製薬株式会社との販売提携契約締結について」というプレスリリースが出され、塩野義製薬から「開発進展などに応じたマイルストン収入として総額最大 47 億円を受領すること」と「製品上市後の販売額に応じたロイヤリティを受領すること」というビッグサプライズが発表されました。
サスメドが治療用アプリの開発を担い、上市後は大手製薬メーカーである塩野義製薬が販売を担うことになります。
つまり、これからは販売額に応じたロイヤリティ収入が入ってくるのでやっと収益化のターンに入っていくということですね。
更には、2022年11月9日のプレスリリースで杏林製薬との耳鼻科領域における治療用アプリの共同開発研究及び販売に関する契約を締結し、契約一時金1億円および開発の進捗に応じたマイルストン(暫定として6億円)、そして上市後の売上高に応じた一定率のロイヤリティを得ることが発表されており、今後の事業拡大が見込める材料を持っていたりします。
ちなみに、治療用アプリはスマホにダウンロードして使用するので、「血圧測定できちゃいます!」や「健康管理アプリです!」みたいに思われがちですが、実は普通のアプリとは全然違います。
一般の方には、「ただの健康アプリ」と「治療用アプリ」の区別がまだついておらず治療用アプリの認知度が非常に低い状況ですが、認知されればその凄さが世の中にも浸透してくことでしょう。
サスメドに投資されている方は、健康アプリと治療用アプリの違いは絶対に知っておいた方が良い内容です。
治療用アプリについてはこのあとしっかりと説明します。
●治療用アプリ第1弾として、不眠障害アプリが2023年2月15日に承認された
●治療用アプリ上市後は収益化のターン
●塩野義製薬や杏林製薬と販売提携契約が締結されている
●その他、開発パイプラインが多数控えている
DTxプラットフォーム事業
「2023年6⽉期第2四半期決算説明資料 」より抜粋
DTxプラットフォーム事業は、「DTx開発支援」、「汎用臨床試験システム」と「機械学習自動分析システム」の3つの事業に分かれています。
とてもざっくり言うと、「治験の効率化のツールを提供する事業」というイメージを持ってもらえば良いかと思います。
それぞれの事業について簡単に触れていきます。
DTx開発支援
この事業は、治療用アプリを開発するメーカーの支援になります。
2023年2月14日まで、日本で治療用アプリの承認取得をした会社はCureAppのみでしたが、2023年2月15日に不眠障害用アプリが承認されたことでサスメドも「治療用アプリの承認取得に成功した会社」の仲間入りを果たしました。
製薬業界では薬価の改定により、どんどんと薬価が引き下げられ非常に苦しい状況に追いやられています。
そのため、大手製薬メーカーでは医薬品以外の活路を見出す動きも出ており、実際に大塚製薬のうつ病治療用アプリやアステラス製薬の糖尿病治療用アプリの開発も進められています。
DTx開発支援事業が拡大するかどうかは、今後治療用アプリの開発がより活発に行われるかにかかっているわけですが、大手製薬メーカーも動き出していることから事業拡大の商機は十分にある面白い分野となると予測しています。
なんせ、国としても医療費の削減を目指しているでしょうし、治療用アプリが医療費の削減に繋がれば国としても嬉しいことですからね。
●治療用アプリの開発が拡大すればノウハウを持つサスメドの開発支援の需要が高まる。
汎用臨床試験システム
先ほども少し触れましたが、日本の製薬業界は薬価の改定により苦しい状況に立たされており、治験のコスト意識についても以前よりも厳しくなってきています。
国によって薬価が決められてしまうので、売上が強制的に落ちてしまう分、コストを削減しなければ利益を保てないというイメージです。
製薬メーカー各社はどうにかして治験のコストを削減したいと考えているわけですが、そこで活躍するのがサスメドのブロックチェーン技術になります。
依頼者はどこを見ている?CROを選定する時の基準をまとめてみたの記事の「項目別に金額を並べる」の部分でもお話をしましたが、治験を行う上で「モニタリング費用」というのは結構な割合を占めていますが、サスメドのブロックチェーン技術を利用するとこの「モニタリング費用」を抑えられるというわけです。
「ブロックチェーンを活用した臨床試験の効率を高めるシステムおよび取り組み」より抜粋
2023年2月2日のサスメドのお知らせには、自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチームでディスカッションしたことも触れられており、政府からの注目度も高いと言えるでしょう。
ただし、課題もあります。
私のプロジェクトにブロックチェーン技術を利用したモニタリングを導入するか検討する時に一番気になるのは「どの医療機関でも利用できるものなのか」という点です。
医療機関はシステムの導入には保守的であることが多く、手順書などの受け入れ体制が整っていないと導入不可とする施設もまだまだ多いだろうと予測しています。
メーカー目線では、症例数を多く抱えている大学病院を中心にブロックチェーンの受入れ体制が整えば導入が増えていくのだと思います。
また、2022年11⽉8⽇のプレスリリースでは、 アキュリスファーマの治験でブロックチェーン技術が導入されたことが報告されており、製薬業界としてもその費用削減実績に注目が集まっています。
サスメドのブロックチェーン技術で具体的にどのようにモニタリング費用を削減するかは、新規上場のサスメドについて治験の観点から評判や仕組みをまとめてみたの記事にも書いてあります。
●サスメドのブロックチェーン技術は治験コストの削減に繋がる。
●アキュリスファーマの治験で世界初となるブロックチェーン技術を導入。
●利用できる施設の制限が課題となる可能性がある。
●製薬業界からも注目されている。
また、以下のヒロシズさんの記事でも分かりやすくまとめられています。
皆さんこんにちは! CRO(ヘルスケア企業)にて新規事業開発をしているヒロシズです。 今回は、先日Twitterでも皆さんに質問した、ブロックチェーン×治験について、元CRA(臨床開発職)の経験と個人的な考察を含めてお話していこうかと思います。 まずはじめに、先日私が皆さんへ質問した、ブロックチェーンの治験への導入によってCRAの働き方はどう変わると思うか?の質問に対する投票結果を貼っておきます。
機械学習自動分析システム
近年では、医療リアルワールドデータからエビデンスを構築する手法が確立されており、サスメドのAwesome Intelligence®では、リアルワールドエビデンスの創出をすることができます。
…と言っても、少し分かりにくいと思いますので、噛み砕いて説明をすると、「電子カルテの情報」、「検査値データ」、「薬の服用データ」、「レセプト」などの膨大な医療情報(RWD:リアルワールドデータ)を分析することで、医薬品を安全に使用するための条件などを探し出すようなイメージです。
とてもざっくり書きますと…
「80歳以上の患者さんで腎機能の悪化の傾向がある」→「もしかして、薬の副作用では?」ということでしたり、「薬Aと一緒に服用すると頭痛が多発している」→「もしかして、薬Aと一緒に服用すると頭痛という副作用が出てしまうのでは?」などの条件を分析していく感じですね。
実際には色々な条件やパターンを検証する必要があるのですが、膨大なデータをAIと使って分析をしていくようなイメージを持ってもらえれば大きくは外れません。
製薬メーカーは医薬品が上市してからも継続的に安全性情報を監視していく必要があるので、需要はかなりあったりします。
ただ、この分野は既にライバルも多くいるのでサスメドにとっては他社とどのように差別化していけるか、優位性を示せるかという点がポイントかと思います。
この辺りのことは、サスメドの市川さんの「機械学習を活用したリアルワールドデータからの継続的なエビデンス創出」に詳しくまとめられています。
●需要は今後も拡大すると考えられる。
●ただし、ライバルも多い。
サスメドの材料の整理と今後の予測
2023年2月17日時点でサスメドから発出されているプレスリリースとIRの中で個人的に重要だと思うものをピックアップしてみました。
塩野義製薬との販売提携契約締結(2021年12月27日)
2023年2月15日に承認された「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」の日本における独占的販売権を塩野義製薬が獲得する契約になります。
つまり、不眠障害用アプリが上市されたら塩野義製薬の営業が販売を担うことになるということですね。
塩野義製薬は大手製薬メーカーで、既に医薬品を数多く販売をしているため販売網が確立されています。
その大手の販売網を活かすことができるので、サスメドにとっても大きなメリットがあると言えるでしょう。
開発状況に応じたマイルストン収入(総額最大47億円)と販売額に応じたロイヤリティーを得ることになりますが、現時点でのマイルストン収入の状況について見てみましょう。
公表日 | マイルストン | 獲得額 | 業績反映 |
2022/2/10 | 契約一時金 | 2億円 | 2022年2月10日 |
2023/2/15 | 承認取得 | 4億円 | 2023年2月10日 |
– | – | 残り41億円 | – |
2023年2月15日に正式に承認を取得した際に4億円のマイルストンを獲得することとなりましたが、こちらは2023年2月10日の第2四半期の決算に織り込み済みだったようですね(決算には明記されていなかったような…)。
<業績への影響>
本件により、当社は、2021年12月に塩野義製薬株式会社との間で締結した販売提携契約に基づき、医療機器製造販売承認に関するマイルストン400百万円を受領する予定です。マイルストンの計上による業績への影響につきましては、2023年2月10日に公表いたしました2023年6月期通期業績予想に織り込み済みです。2023年2月15日 IRより
残されたマイルストン収入は41億円となりますが、恐らくは今後確定する「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」の保険点数が決まった段階で確定するのではないかと推測しています。
「2023年6⽉期第2四半期決算説明資料 」より抜粋
そして、サスメドの資料によれば想定している保険点数は1,920点(19,200円)となるので、サスメドの不眠障害用アプリが想定通り1,920円に決まるかが肝になってきます。
保険点数が付くまでには、薬事承認後に厚生労働省の医局経済課に申請をし、中央社会保険医療協議会により審査され、中央社会保険医療協議会(中医協)の了承が必要になります。
薬事承認
↓
保険適用申請
↓
保険医療材料等専門組織で議論
↓
中医協で審査
↓
保険適用
ちなみに、保険適用開始月の1ヵ月前の末日までに中医協で了承されたものは、3月・6月・9月・12月から適用開始になることになります。
そのため、あくまで予想ですが2023年6月or9月で保険適用が開始されその時点で最終的なマイルストンが確定するのでは?と読んでいます。
既に日本で承認されている治療用アプリのCureApp HTの時と比較してみると以下のような感じになります。
CureApp HT | Med CBT-i (サスメド) |
|
薬事承認申請 | 2021年5月25日 | 2022年2月1日 |
プログラム医療機器調査 | 2022年3月9日 | 2022年12月19日 |
薬事承認 | 2022年4月26日 | 2023年2月15日 |
保険医療材料等専門組織 | 2022年6月16日 2022年7月13日 |
準備中 |
中医協総会 | 2022年8月3日 | 2023年8月? |
保険適用開始 | 2022年9月~ | 2023年9月~? |
まずは、中央社会保険医療・協議会の議題に挙がってくるところで進捗度合いが把握できますので、気になる方はそちらをチェックしておくと良いでしょう。
杏林製薬との共同研究開発及び販売に関する契約(2022年11月9日)
サスメドは、2022年11月9日のプレスリリースで、耳鼻科領域における治療用アプリを杏林製薬と共同研究開発をすることを発表しました。
サスメドの開発パイプラインを見てみると、SMD403が耳鼻科領域になりますので、恐らくこの治療用アプリのことを指していると思われます。
「2023年6⽉期第2四半期決算説明資料 」より抜粋
進捗を見る限り、治験開始の準備段階のようですね。
治験が開始されたらいち早く察知する方法があるのですが、そちらについてはまたいつか記事にしてみようと思います。
そして、重要なマイルストン収入等についてですが、以下のようになっています。
- 契約一時金(1億円)
- 開発の進捗に応じたマイルストン収入(判明分で6億円)
- 上市後の売上に応じたマイルストン収入
この中で特に、「開発の進捗に応じたマイルストン収入」は判明分の6億円のみが明記されていますが、塩野義製薬での「開発の進捗に応じたマイルストン収入」は最大で47億円であったことを考えると、今後新たにマイルストン収入が発生する可能性もあるのかなと推測しています。
その際はサプライズIRとなるので、個人的には期待をしている部分です。また、契約一時金の1億円については、以下のように記載されています。
本件の契約一時金 1 億円については、来期以降の適切な時期での収益計上を予定しており、2023年6月期業績予想への本件契約締結の影響は軽微であると判断しておりますが、今後公表すべき事項が生じた場合には速やかにお知らせします。
2022年11月9日IRより
つまり、現時点ではこの1億円は2023年6月期決算には織り込まれていないため、2024年6月期決算目標(2023年8月頃に発表)に織り込まれてくることになります。
2023年8月頃といえば、順調にいけば先ほどのサスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリの保険適用の目途が立つ時期ですので、2024年6月期業績予測は2023年6月期決算よりも非常に良くなる可能性が高いのではないでしょうか。
杏林製薬との治験状況に進展があれば、また当ブログでも紹介をしていきたいと思います。
世界初ブロックチェーン技術を導入した治験(2022年6月29日)
本記事の「汎用臨床試験システム」の項でも紹介したブロックチェーン技術を導入した世界初の治験の実施される発表がありました。
製薬ベンチャーのアキュリスファーマと大手CROのシミック株式会社との協業になります。
サスメドのブロックチェーン技術を使用するのでサスメドの材料ではあるのですが、実はこの治験が成功すればCROのシミック株式会社(2309)にとってもプラス要素になります。
というのも、CRO業界は外資系CROが勢いを増しており、内資系CROであるシミックにとっては他CROとの差別化を図るために最新の技術を利用したノウハウを蓄積しておきたいという思惑があったりするのですよね。
少し話が反れてしまいましたが、こちらのアキュリスファーマの治験は2022年11月8日のIRで国内第3相試験が開始したことが発表されました。
目標症例数は123例、治験終了は2024年6月30日とのことです。
このアキュリスファーマの治験についても時間があれば当ブログでもう少し詳しく触れていきたいと思います。
この治験でサスメドにとって注視すべき点は、「治験が完了し当局による査察で指摘を受けないこと」になります。
当局の査察で指摘が入らなければ「ブロックチェーンを利用して成功をした世界初の治験」になるわけですからね。
この実績があれば、製薬メーカー各社より問い合わせも一気に増え、「汎用臨床試験システム」の売上にも大きく貢献することになるでしょう。
まとめ
サスメドは構成株主を見ても個人が多いため、株を持っている方にとっては荒い値動きに翻弄されてしまう場面もあるかもしれません。
しかし、治療用アプリの開発は医薬品の開発と比較すると成功確率も高く低コストで治験が出来る強みがあります。
更に、治療用アプリの開発が成功し、販売提携契約が締結できればマイルストン収入や販売ロイヤリティ収入も入るため、非常に安定した経営基盤となります。
つまり、ただの「バイオベンチャー」という括りには収まらない会社ということですね。
短期で見ると株価の動きも荒いのですが、長期目線で見れば黒字化して成長を続けるのがほぼ明確なので、今後の成長が非常に楽しみです。
私も製薬メーカーで治験をマネジメントする立場として、サスメドの技術に非常に注目しています。