サスメドの不眠障害治療アプリの承認が了承!株価の動きも考えてみる

2022年12月19日に行われた「薬事・食品衛生審議会プログラム医療機器調査会」でサスメドの不眠障害治療アプリの医療機器製造販売承認が了承されました。

株価の動きにも触れながら個人的な着目ポイントをまとめてみたいと思います。

※本記事は株の売買を推奨するものでは御座いません。投資は自己責任のもとお願いします。

不眠症治療の現状を簡単に

不眠症治療の現状を簡単に

不眠障害は、うつ病、認知症、がん、糖尿病、肥満症など複数の疾患のリスク要因となっています。

日本においては、不眠症の有病率は21.4%であり、そのうち8.3%が入眠障害を有していることが報告されていることから多くの方が不眠障害に悩まされていることが分かります。(Kim K, Uchiyama M, Okawa M, Liu X, Ogihara R. An epidemiological study of insomnia among the Japanese general population. Sleep. 2000 Feb 1;23(1):41-7.

そんな多くの方を悩ませている不眠症ですが、その治療法に目を向けてみましょう。

睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン」によると、日本の不眠症治療の主流は睡眠薬を用いた薬物療法である一方で、ふらつき、転倒、倦怠感の持ち越し効果の他に薬物依存をもたらすこともあり、睡眠薬の減薬や処方期間の短縮の必要性が議論されています。

同ガイドラインにおいて、睡眠薬の減薬のためには、薬物療法と並行して睡眠衛生指導や認知行動療法などの心理・行動的介入が推奨されており、サスメドの不眠障害治療アプリはこの「認知行動療法」をベースとした治療を目指しているものになります。

不眠症治療においての認知行動療法の位置付けは、薬物療法と並行して補助的におこない、睡眠薬の減薬を目指すものであることが読み取れますね。

ちなみにサスメドやブロックチェーンの治験への活用については以前に以下の記事で紹介をしています。

サスメドの不眠障害治療アプリ

サスメドの不眠障害治療アプリ

このように不眠症の薬物療法には、メリットがある一方で様々な問題点があることからも認知行動療法にスポットが当たっており、その治療を効果的に進めていくアプリがサスメドの不眠障害治療アプリであると言えます。

「アプリ」と言うと、誰でもダウンロードが出来るような「健康アプリ」のようなものをイメージされる方も多いと思いますが、治療用アプリは医師から処方されないと使用できないアプリで、一般的なアプリとは異なります。

医療用医薬品は、医師からの処方が必要になりますが、それと同じような感覚ということですね。

治療用アプリの存在は、まだ一般の方には浸透していませんが、医薬品等と並ぶ新たな治療の選択肢の1つとなっています。

そして、アプリはアプリでも、普通の健康アプリとは違い、有効性と安全性について治験を行ってしっかりと科学的なエビデンスが無ければいけません。

そのため、サスメドの治療用アプリでは、2021年5月〜2021年9月にActive群87例、Sham群88例のランダム化二重盲検試験によって治験が実施され有効性と安全性が検証されました。

Sham群というのは、医薬品の治験では聞き慣れませんが、アプリから治療アルゴリズム等の機能を除いたもので、医薬品治験での「プラセボ群」に相当するものです。

サスメドの治験の流れ2022年11月11日プレスリリースより抜粋

スクリーニング期間として1週間、治療期として8週間、後観察期として2週間の合計11週間程の試験デザインでした。

試験デザインはシンプルで、ターゲットとする疾患も不眠症であるためクリニックからも症例を集められることを考慮すると、非常に進めやすい類の治験ですね。

とはいえ、4ヵ月で175症例を完了させているため、被験者リクルートメント~施設オペレーションまでが円滑に進んでいたことが伺えます(素晴らしいですね!)。

治験の結果は、睡眠医学領域の国際的トップジャーナルの1つである Sleepに論文で掲載されました。 評価項目については、以下のように設定されていました。

主要評価項目

治療開始から8週時点でのアテネ不眠尺度の変化量

副次評価項目
CGI-I
終了時のアテネ不眠尺度が6点未満の割合
終了時の投薬の要否

また、有効性に関する、Activate群とSham群の比較の概要は以下のスライドに分かりやすくまとめられています。

サスメドの治験の結果の概要出典:Sleep, zsac270, https://doi.org/10.1093/sleep/zsac270

ちなみに、安全性に関しても特段懸念するようなものはなかったとのことです。

株価推移の振り返り

サスメドの株価推移_20221223時点株探の株価チャートより作成

サスメドは、2021年12月24日に東証マザーズに新規上場し、初値は公開価格より6.1%高い1,500円で値が付きました。

その後、2021年12月27日に「不眠症治療用アプリに関する塩野義製薬株式会社との販売提携契約締結について」というプレスリリースが出され、塩野義製薬から「開発進展などに応じたマイルストン収入として総額最大 47 億円を受領すること」「製品上市後の販売額に応じたロイヤリティを受領すること」というビッグサプライズが発表されました。

そのため、翌日12月28日はストップ高の2,000円を付け、12月29日には、上場来高値である2,500円を付けました。この時の勢いは凄かったですね。

上場来高値を付けてからは、株価は振るわず2022年6月20日に上場来安値である688円を付けましたが、2022年6月29日のプレスリリースでアキュリスファーマと世界初ブロックチェーン技術を活用した治験業務(モニタリングのDX)に関する発表を契機に株価は反発。株価しばらく1,000~1,200円で推移をしていきました。

その後は、株価を切り下げる場面もありましたが、2022年11月9日のプレスリリースで杏林製薬との耳鼻科領域における治療用アプリの共同開発研究及び販売に関する契約を締結し、契約一時金1億円および開発の進捗に応じたマイルストン(暫定として6億円)、そして上市後の売上高に応じた一定率のロイヤリティを得ることが発表され、株価のベースが1,300円代で推移することになりました。

12/5には一部メディアで12/19の薬事・食品衛生審議会プログラム医療機器調査会で承認が審議されることが伝わり、出来高は急上昇。

相場は一気に過熱し、12/12には2,016円の高値を付け、審議直前の12/19までは1,700~1,800円代で比較的安定して推移をしていました。

12/19の18:00~20:00に行われた薬事・食品衛生審議会プログラム医療機器調査会では無事に承認の了承が得られたものの、12/20以降は株価の下落が大きくストップ安を付けながら現在も下落が進んでいます。

12/20の株価下落に関しては、同日に日銀が長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げるサプライズ発表を行い、市場からは事実上の利上げと判断されマザーズ指数も大きく下げたことも拍車をかけたと思われます。

承認了承後の株価急落の要因を考えてみる

承認了承後の株価急落の要因を考えてみる

薬事・食品衛生審議会プログラム医療機器調査会では、承認が了承されましたが、調査会の中で一部気になるコメントが出されました。

大まかにお話をすると、サスメドの不眠障害治療アプリについて、認知行動療法そのものを使用目的とする上での有効性の程度が疑問視され、認知行動療法の支援や補助という位置付けが適切であるというものでした。

「承認の了承」自体はポジティブな材料でしたが、「認知行動療法そのものではなく支援や補助的な位置付けである」とされたことは想定外のネガティブ材料と市場からは判断された可能性があるのではないかと思います。もう少し詳しくお話をします。

塩野義製薬からのマイルストン収入とロイヤリティ収入

塩野義製薬からは、以下の収入があることが発表されていました。

開発進展などに応じた総額最大47億円のマイルストン収入
製品上市後の販売額に応じたロイヤリティ収入

薬事・食品衛生審議会プログラム医療機器調査会での審議で、同治療用アプリが「認知行動療法の支援や補助という位置付けが適切」とされましたが、このことが上記マイルストン収入等にネガティブに働くこと(想定の収入よりも低くなること)を懸念してリスク回避的な売りを呼んだ可能性があると考察しています。

つまり、「認知行動療法そのものではなく支援や補助的な位置付けである」ということが、上記収入にどのような影響を及ぼすのかが着目ポイントだと思っています。

想定収入に影響を及ぼさないようであれば、中長期的に株価が回復するものと思っています。

サスメドが想定している市場規模

2023年6月期第1四半期の決算説明資料によると、不眠症が治療用アプリの国内市場規模の推計として、ターゲット市場を1,000億円、潜在市場規模を3,500億円と見込んでいます。

ただし、この計算は保険償還の対象となっているうつ病に対する対面の認知行動療法の保険点数を参照したものです。

もう少し詳しく書くと以下のような条件に基づいていることになります。

アプリの想定処方期間2ヶ月
対面式の認知行動療法における保険点数480点/回×4回(1,920点/処方)

今までの資料からすると、私の印象では認知行動療法そのものとして想定をしているような気がしますので、先ほどと同じく、「認知行動療法そのものではなく支援や補助的な位置付けである」ということでこの試算に変更が生じないのかに着目しています。

また、医薬品の開発の経験上、「薬価がどれくらい付くのか」は非常に重要であり、その想定が予想よりも下振れてしまうと当然売上に直結しますので、特に注視するべき点だと考えています。

過去の治療用アプリの事例で考えると、CureApp SCの際は、特定保険医療材料としての価格算定が反映されず、新規技術料にて評価されたことから企業側の希望点数を大きく下回りました。

ただ、この点においてはサスメドの想定は、対面式の認知行動療法における保険点数を参照していることから、あまり大きな想定外にはならないだろうと予測しています。

そのため、想定外と思われる「認知行動療法そのものではなく支援や補助的な位置付けである」ことでの想定薬価への影響度に注視しています(「1,920点/処方」の想定に変更がないかどうか)。

その他の不確定要素

これは医薬品でも同じなのですが、今回の治療用アプリについてガイドラインにどのような記載のされ方がされるのかが注目ポイントかと思います。

ガイドラインへの書かれ方、更にはアプリ販売後のプロモーションのされ方、その辺りが気になりますね。

しかし、不眠症治療において、薬物療法と並行して認知行動療法を補助的におこない、睡眠薬の減薬を目指すということについては既に推奨されていることですので、それほど控えめな表現にはならないのではないかと推測しています。

まとめ

2022/12/20の黒田バズーカの影響はグロース銘柄のサスメドにも大いにあったと思われますが、薬事承認に関しては見通しにやや不透明感が残る状況となったのではないかと感じています。

そのため、しばらくは株価の下落も続くかと思いますが、各ロイヤリティ収入やマイルストン収入への影響度のさほど影響がないということや今後の開発パイプラインが評価されていけば徐々に株価が戻す展開になるのではないかと思っています。

個人的には治療用アプリの今後の活躍にとても期待していますので、今後も色々な企業の治療用アプリの開発状況を観察していきたいですね。

今回は、ブロックチェーンのお話は触れませんでしたが、また頃合いを見て共同研究の結果の考察なども書けたらと思っています。