小児患者の治験で新たな試み Tapia(タピア)について調べてみた

治験は新しい薬を作るうえで必要なことであると少しずつですが認知されてきていますが、治験の対象が小児となると抵抗感が強い方も多いのではないでしょうか?

今回は、そんな小児の治験での課題点やその課題点を払拭できるかもしれない新たな試みについて紹介をしていきたいと思います。

小児対象の治験は色々とハードルが高い

薬が市場に出回るには、治験は避けて通れない道になります。そして治験では、未承認の薬をヒトが服用をしてその有効性と安全性を確かめなければいけません。

新しい高血圧の薬を作ろうということであれば、高血圧の患者さんを対象に有効性と安全性を確かめますし、小児(6~15歳未満)に対する薬を作ろうということであれば小児の患者に治験薬を投与をして有効性と安全性を確かめなければいけないということです。

小児が対象の治験となってくるとやはり大人が対象の治験と比べると様々な問題が出てきてしまい、小児の治験がなかなか進まないことにも繋がってきてしまう現状があります。

まず始めに小児が対象の治験ではどんなハードルがあるのかを見ていきましょう。

子どもを治験に参加させることに抵抗感がある

治験というのは、有効性や安全性を確かめるためにやるものなので、それらがまだ分からない状態で自分の大切な子どもに治験薬を飲ませることにとても抵抗感があるご両親が多いかと思います。

小児に投与されまでには、動物実験や健康成人で安全性を確かめているはずですので、安全性が全く担保されていないというわけではないのですが、それでもやはり親としては怖いもの。

私も小さい子どもがいるので、その気持ちがとてもよく分かります。やはり、親としてはほんの少しでも子どもにリスクがあるようであれば治験には参加させたくないと思うのは当然のことかと思います。

ただ、それが難病の治験であったら話は変わってきます。

子どもにとって少しでも危険な思いをさせてたくないのはそうなのですが、それと同時に難病を治してあげたいという思いも強くあるものです。

そうなってくると恐る恐る治験に参加してみようと決心を決めるご両親も出てきますが、ここでもまた問題が出てきます。

子どもにとっては何がなんだか分からない

治験では、被験者になる方がどんな治験なのかの説明を医師や治験コーディネーターから説明を受けて、理解したうえで本人から同意を取ることが大原則です。

ただ、小児(6~15歳)が治験の対象の患者であった場合は、年齢によっては治験の内容なんて何が何だか分からないことが多いでしょう。

つまり、治験の説明を理解したうえで本人から同意を取るということは極めて難しいということになります。

実は、治験のルールを定めているGCP省令というものには小児から同意を取ることについて以下のように記載されています。

第50条 治験責任医師等は、被験者となるべき者を治験に参加させるときは、あらかじめ治験の内容その他の治験に関する事項について当該者の理解を得るよう、文書により適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。

2 被験者となるべき者が同意の能力を欠くこと等により同意を得ることが困難であるときは、前項の規定にかかわらず、代諾者となるべき者の同意を得ることにより、当該被験者となるべき者を治験に参加させることができる。

GCP第50条より一部抜粋

小児本人からの同意取得は、この条文で言うところの赤字部分に該当するもので、代諾者から同意を得ることで良いと書いてあります。

代諾者とは何かというと、主に”被験者の親権を行う者”、”配偶者”、”後見人”が当てはまり小児の場合はほぼ全て親の同意で治験に参加していることになります。

そうなんです、ルール上は小児本人が治験の内容を理解して同意をしなくても親が同意をすればOKということになります。

…でも、それはルール上のお話。本当にそれで良いのでしょうか?

本当は小児にもしっかりと説明すべき

「だって、子どもだし分からないのは当然だし、しょうがないでしょう」と思う方もいるかもしれませんが、そんな難しい課題に挑もうとしているのが、製薬会社の日本イーライリリーが開発をすすめているMJI社製のたまご型ロボット「Tapia(タピア)」になります。

小児に治験のことを説明して理解してもらって同意をもらうというのは確かにハードルが高いですし、出来るかどうかも分かりません。

ルール上は親の同意があればOKなので、「子どもだししょうがない」で済ますことも出来るのに、その難しい課題に挑もうとする姿勢に私は感動しました。

あまり一般のニュースでは大々的に放送はされていなかった印象ですが、私にとってはとてもビックなニュースでした。

それをみなさんにも知ってもらいたく、今回の記事を書くことにしたのですが、このタピアについてもう少し詳しくお話をしていきます。

会話ロボット「Tapia(タピア)」のパイロット運用が開始

小児治験用コミュニケーションロボットのタピア

日本イーライリリー PressRelease(2019年12月12日)より抜粋

製薬会社の日本イーライリリー社が開発を進めているタピアは、発話機能と液晶画面による動画再生機能を搭載したたまご型のコミュニケーションロボットで、「治験とは何か?」というところから、治験に参加をしたら何をすれば良いのかなどの説明動画を音声付きで流すことができるようです。

また、それだけではなく驚きの機能として、タピアの画面に表示されたキャラクターが「今日話したいことある?」といった質問を患者さんに投げかけ、その答えを紙に印刷する機能を搭載していて、医師や保護者とのコミュニケーションをサポートすることもできるとのことです。

タピアの写真を私の1歳の子どもに見せたところ、「あー、あー!(訳:歓喜の声)」と言っていたので、小児にも馴染みやすいデザインのようです。

タピアの画像イメージ

日本イーライリリー PressRelease(2019年12月12日)より抜粋

さて、タピアを開発している製薬会社のことや、現在どんな開発が進んでいるのかにも触れておきましょう。

日本イーライリリー社とは?

日本イーライリリー社とは、兵庫県神戸市に本社を置く会社で、米国インディアナ州インディアナポリスに本社を置く世界9位の売上を誇る大手製薬メーカーのイーライリリー・アンド・カンパニーの日本法人になります。

イーライリリー・アンド・カンパニー社は、世界で最初にインスリン製剤(アイレチン)を販売したことでも有名な製薬メーカーです。

日本イーライリリーは、今回のタピアの開発の他にも患者さんの来院スケジュールに配慮して規定の来院日の許容期間を広げることで来院日の調整をしやすくすることやプラセボの設定を無くすことや対象疾患に対して日本で広く使われている薬剤を併用可能にすることなど、治験の実施環境の整備にも積極的に取り組んでいる製薬メーカーです。

「既定の来院日の許容期間を広げる」とか「併用可能な薬の幅を広げる」とかは、治験の業界で仕事をしていないとなかなかイメージしずらいことかと思いますが、実際に現場で仕事をしている身からすると、非常に仕事がやりやすくなるような改善です。(医薬品の開発をされている方であれば頷いてくれる…はず)

パイロット運用実施の概要

■実施概要

対象疾患:若年性特発性関節炎
期間:2019年11月~2021年2月
対象医療機関: 全国6施設(宮城1、東京 1、神奈川 2、大阪1、鹿児島1)

日本イーライリリー PressRelease(2019年12月12日)より抜粋

2019年11月から若年性突発性関節炎の治験でタピアのパイロット運用がされているとのことです。

日本医薬情報センター(JAPIC)に掲載されている情報によると、日本イーライリリー社が実施中の若年性特発性関節炎の治験は、2020年7月5日現在で3試験あるようです。

そのいずれかの試験でタピアのパイロット運用が実施されているのでしょうね。

若年性突発性関節炎

若年性突発性関節炎の治験でタピアのパイロット運用が実施されているとのことですが、若年性突発性関節炎とはどんな疾患かについても簡単にまとめておきます。

若年性特発性関節炎は16歳未満に発症する原因不明の難病(指定難病107)で、6週間以上の関節の炎症を引き起こす疾患で英語ではJIA(Juvenile Idiopathic Arthritis)と表記されます。

さらに若年性突発性関節炎は以下の7つのタイプに分類されます。

若年性突発性関節炎のタイプ

① 全身型
② 少関節炎(持続型、進展型)
③ リウマトイド因子陰性多関節炎
④ リウマトイド因子陽性多関節炎
⑤ 乾癬性関節炎
⑥ 付着部炎関連関節炎
⑦ 未分類関節炎

日本における若年性特発性関節炎の患者さんの割合は、小児の人口1万人あたり1人といわれており、約8,000人の患者さんがいると考えられます。
少関節炎及び多関節炎は女の子に多い傾向が報告されています。

タイプ別に見ると全身型が約30~40%と最も多く、症状としては関節痛を伴って40℃を超える発熱が突然出現し、短時間で発熱が下がるという状態が数週間続きます。

また、全身の炎症が長く続くと、多臓器不全等の重篤な状態になる場合もあります。

治療としては、関節の痛みや腫れに対しては非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)を使用し、全身型では加えてステロイド、関節型では抗リウマチ薬であるメトトレキサートでの治療が中心となります。

疾患についての詳しい情報は、本ページの【参照文献・参照サイト】に記載してあるサイトの情報もご参照いただければと思います。

こちらに記載している内容もそちらのサイトの情報を参考にさせてもらっています。

運用試験の結果と今後の期待度

2020年7月4日現在ではまだパイロット試験を実施している最中で結果が出ていませんが、結果が出たらこちらの記事を更新してみなさんにもお伝えしたいと思っています。

ただ、日本イーライリリー社は2019年の9月から人型ロボットのあの「Pepper」を使って治験啓発に関するパイロット運用もしていてそちらの結果では、パイロット試験に参加した医療機関3施設すべてで治験に関する患者さんからの問い合わせが入るなど、結果を残しているので、今回のタピアのパイロット試験にも期待しています!

まとめ

私は今回のタピアの開発は心の底から応援をしていますし、良い結果が出て医療機関で活躍することを心から祈っています。

私の子どもは幸いにも今のところ健康に過ごしていますが、将来どうなるかは誰も分かりません。

もし、治験に参加させることになったとき、難しい話で分からないかもしれませんが、親としてはやっぱり子どもにもできるだけどんなことをしているのか知って欲しいですし、その権利もあると強く思っています。

頑張れ、イーライリリー!!

【参照文献・参照サイト】
1. 小児治験ネットワーク
2. 難病情報センター
3. リウマチe-ネット