セントラルIRBの導入を依頼者で決定するために必要なことを考えてみる

日本で行われている治験は高品質ではあるものの、コスト面やスピードの観点から海外にまだまだ遅れを取っている状況です。

その課題を解決するための1つの手段として以前より注目されているのがセントラルIRBによる一括審議です。

今回は、依頼者目線からセントラルIRB導入時に考えておきたいポイントをまとめていこうと思います。

のりすのりす

治験業界でかれこれ10年以上働いています。Twitterでのフォロワー数は4,000人程。今回も分かりやすさを重視して解説をしていきます!

はじめに

セントラルIRBの導入を依頼者で決定するために必要なことを考えてみる_はじめに

セントラルIRBの導入は、【基礎から解説】医薬品開発の迅速化に貢献するセントラルIRBとは?の記事でもお話した通り様々なメリットが考えられるため依頼者としては是非導入をしていきたいところかと思います。

そこで今回は、もし私が担当しているプロジェクトでセントラルIRBを導入するとしたらどのようなことを考えてどのように会社に説明するかをまとめていきたいと思います。

後から検討する時にしっかりと思い出せるように自分の頭の中の整理用メモも兼ねています。

ですので、あくまで「私だったら」という視点で書いていることにご留意下さい。

導入によるベネフィットを確実性要素と不確実性要素に分けて考える

セントラルIRBでコスト削減効果をプレゼンする際のイメージ

セントラルIRBを導入するメリットは色々とあるわけですが、ビジネスの世界ですのでただ漠然としたメリットを思い描いているだけではいけません。

そこで、メリットを明確に示せる「確実性要素」と希望的観測も含む「不確実性要素」に分けることからスタートしていきます。

確実性要素

私の場合、予算を取るために交渉をしなければいけない相手の中には治験に精通していない人もいます。経営寄りの人ですね。

なので、一番理解しやすい「セントラルIRBを導入することでのコスト削減」を主軸に置いて交渉を進めていくのが効果的ではないかと思っています。

具体的な考察は後述するので、まずはここまでにしておきます。

不確実性要素

不確実性要素には、例えば以下のようなものが挙げられます。

不確実性要素の一例
セントラルIRB導入により施設との初回契約が円滑に進めば早期に症例の組入れを開始でき、試験を早期に完了させることができる。
共通の審議資料(特にICF)でも可ということになれば、CRAを中心に立ち上げ時の負荷を減らすことができる。
IRB保管分の資料が一か所にあるため、必須文書SDVの際に複数人で訪問することができ、確認効率の向上が見込める。
電子媒体での資料提供である場合、委員がタブレット端末から審議資料を確認する等の対応が考えられ、紙のファイリング資料を作成する手間が省けるため工数の削減に繋がる。

不確実性要素の場合は、希望的観測なので実際にそうなるかどうかは「やってみないと分からない」というものになります。

また、現場をある程度イメージできるような人でないとこれらのメリットを具体的にイメージしにくいこともあるかもしれません。

そのため、これらについては補助資料を作成しつつ、あくまでプラスαとして見込める効果ということで私だったら説明します。

この不確実性要素については、もしセントラルIRBを導入した場合にはあとからしっかりと検証することで今後のプロジェクトでのセントラルIRBの導入に繋げることができます(次のプロジェクトの際には確実性要素に移行できるということです)。

セントラルIRB導入によるコスト的メリットを考える

セントラルIRB導入によるコスト的メリットを考える

セントラルIRB導入によって期待できるコスト削減について数字を使いながら整理をしていきます。

実際には、会社に蓄積しているデータから数字を出していくのですが、ここではさすがに詳細な数値は出せないので大まかな数値で出していきます。

大まかといっても私の経験上、恐らくそんなに実態とは大きくは離れていないと思います。

施設のIRB費用

大学病院などの大規模な施設で自施設のIRBを使用している施設の費用感は概ね以下のような印象を持っています。

施設 初年度費用 2年目以降 継続 迅速
モデル病院 200,000 100,000
施設 初年度費用 2年目以降 継続 迅速
モデル病院 200,000 100,000

ルールはもちろん施設によって色々あるのですが、そこそこ多いパターンとしては、初回費用として20万円近くの費用がかかりその後は年度ごとに10万円近くの費用を請求してくるパターンです。

継続審査や迅速審査の時には別途費用を支払わなければいけない施設もあるのですが、まるめて費用を1年分支払うことも多々あるので本記事の検証ではこの数値を使います。

SMOのIRB関連費用

自施設のIRBを使用している場合でも、SMOがIRB事務局支援をしている場合があります。

私の印象では、施設のIRB費用の請求の仕方とは異なり、最初に初期準備費用がかかり、その後は審議毎に費用が発生する仕様が多いかなというところです。

SMO 初期準備費用 通常審査
モデルSMO 150,000 50,000
SMO 初期準備費用 通常審査
モデルSMO 150,000 50,000

あまり複雑にすると分かりにくくなるので、本記事ではこの数値を使います。

実際のシミュレーション

ではでは、プロジェクトの規模等色々考慮をしたうえで以下のようなシチュエーションを想定してシミュレーションをしていきましょう。

シミュレーションをしていくにあたっての設定条件は以下の通りとします。

  • 20施設による多施設共同治験
  • 10施設でSMOがIRB事務局支援をしている
  • IRBはどの施設も1ヵ月に1回審議をする
  • 試験期間は3年間

では実際に計算をしていきます。

施設のIRB関連費用

初年度:200,000円×20施設=4,000,000円
2年目:100,000円×20施設=2,000,000円
3年目:100,000円×20施設=2,000,000円
合計:8,000,000円

SMOのIRB関連費用

初年度:150,000円×10施設+50,000円×12ヵ月×10施設=7,500,000円
2年目:50,000円×12ヵ月×10施設=6,000,000円
3年目:50,000円×12ヵ月×10施設=6,000,000円
合計:19,500,000円

施設+SMOのIRB関連費用の合計

初年度:11,500,000円
2年目:8,000,000円
3年目:8,000,000円
合計:27,500,000円

この条件の場合は、3年間の試験でIRB関連費用の合計は2,750万円ということになりました。

依頼者の立場としては、まぁ結構大きい額なのでこの部分のコストカットができるということであれば偉い方々も食いついてくると思うのですよね。

この数字を指標にすると、1ヵ月あたり約76万円になります。

ですので、まずはセントラルIRBを導入することでこの76万円を切ることができるかどうかという部分が判断指標の1つになるのではないかなと考えています。

実際にはここに不確実性要素で期待されるコストカット分が乗っかるので月あたり100万円ほどでもいけなくはなさそうですが、そうなると不確実性要素を織り込んだ期待値を偉い方々に説明して納得してもらうことになるので交渉の手腕が問われることになりますね!

もし私なら、不確実性要素の中でも更に実現可能性が高い&成功イメージがしやすい項目順に並び替えて説明する手段を取ると思います。

まとめ

今回の記事では、セントラルIRBの導入を検討する際に一番説得力がありそうな数字を使ってのお話でしたが、不確実性要素についても数字をしっかりと出しておけばより説得力がある交渉に繋げられるのではないかと思います。

また、実は本記事ではセントラルIRBを導入することでのメリットにのみ触れておりデメリットには触れていないのにお気付きでしたでしょうか?

私は、セントラルIRBにすることで依頼者としてのデメリットはほぼ無いだろうと考えているため導入の検討の際にはデメリットの部分は要素にあえて加えていませんでした。

この辺りの考え方は人によって異なると思うので、もし一部分においてコスト増大の懸念がある場合には「1ヵ月あたり約76万円」というハードルがもっと高くなるということですね。

今回は依頼者目線での記事でしたが、セントラルIRBの導入には施設側の理解が欠かせません。

機会があれば今度は施設目線の記事が書けたら楽しそうだなと考えています。