CROではCRAの経験者だけではなく、未経験者も募集していることがあります。
しかし、ただ転職できれば良いという訳ではなく、そのあとしっかり長くやっていけるかどうかが大事です。
本記事では、未経験者がCROに転職するときに考えられるリスクとその対応方法について経験者の視点から紹介しています。
本記事を読むことで、未経験者がCROで本当にやっていけるのか、どうしたらうまくやっていけるのかが分かります。
未経験者でCROへ転職する人は意外に多い
CROで働いている頃によく感じたのは「人の入れ替わりが比較的多い」ということ。
そして、その入れ替わる人は、経験者もいれば未経験者としてCROに入社してくる人もそれなりにいました。
CROは、臨床開発モニター(CRA)がどれだけ所属しているかで受注できる案件数も決まり、会社としての売上も決まってきます。
そのため、CROとしては、リソースであるCRAの社員をなるべく確保しておきたいという思いがあります。
CRAの仕事は治験が適切に実施されているかをモニタリングすることなので、専門性が高く、未経験者はあまり中途で転職してこないイメージがあるかもしれませんが、意外にも未経験者の転職を受け入れているCROもあったりします。
ただ、未経験者がCROへ転職するときには気を付けておかなければいけないポイントもあります。
そんな気を付けるべきポイントについて、実際にCROでCRAとして働いていた視点から色々と紹介をしていきます。
未経験者を募集しているからといって油断はできない
未経験でCROに転職をしてくる人のバックグラウンドは、調剤薬局で薬剤師をしていた人だったり、医療機関で臨床検査技師、看護師をやっていた人だったり、製薬メーカーでMRとしていた人だったりと様々です。
CRAとしては未経験でも、CRAとして求められているスキルの土台がある方であればCROは受け入れているということです。
ただ、先ほども少しお話した通り、CROがCRAを募集するのは、新たに案件を受注する為にリソースを必要としている場合であり、新たなに案件を受注することが難しいような小規模なCROでは未経験者を募集していないことが多いです。
未経験者がCROに転職してくることは意外に多いのですが、随時募集をしているというパターンはそんなに多くは無いので、「いつでも募集はあるだろう」と油断をしていると大切な転職のタイミングを逃すことになってしまいます。
そのため、未経験でCROへの転職を考えている方は、タイミングには気を付けて置いた方が良いでしょう。
未経験者がCROに転職して失敗するパターン
めでたく未経験者としてCROに転職できたとしても、それでゴールではありません。
入社することがゴールではなく、未経験者でもしっかりとCROでやっていくことがゴールになるので、未経験者が入社をしてあとに待ち構えているリスク知っておく必要があります。
ここでお話する例は一例になりますが、私がCROにいるときに未経験の中途社員の何人かが実際に苦労していたので知っておいた方が良いと思います。
未経験でCROに転職することを考えている方には、こんなリスクもあるということをしっかりと考えて対策をしてもらいたいという意図で紹介しているので、ただ脅かしている訳ではなく、リスクに対する対策を考えるきっかけになればと願っています。
まともに教育してもらえず現場へ投入
私が見てきた未経験の中途社員がCROに転職をしてきて苦戦しているパターンで一番多く感じるのが、あまりまともな教育を受けずに現場に投入されてしまうパターンです。
やはり、中途社員は新入社員とは違い、基本的には即戦力になって欲しいという会社側の期待があります。
即戦力まではいかなくとも、”新入社員よりは早く現場で仕事をしてね”と期待されていることがほとんどでしょう。
そうなると、やはり最低限の研修を受けたら、各プロジェクトに配属されるということになります。
さすがに、その段階で「はい、では明日からあなたはA病院とB病院を担当してね。よろしく。」とはならず、まともなCROであれば、未経験者はまずはある程度ベテランのCRAにOJTという形で一緒に仕事をしながら仕事を覚えてもらうという方法を取るかと思います。
求人にさらっと「OJT制度」と書いてある場合がありますが、それは「しっかり先輩が付いて教えてくれますよ」ということなので、未経験者にとっては見逃せないポイントになります。
ただ、いくら先輩が付いて教えてくれると言っても注意すべきことがあります。
それは、もし配属されたプロジェクトが治験の立ち上げ時期であった場合、立ち上げ時期のCRAは忙殺されており、未経験者に色々と教えている余裕が無い場合が実際にはあるということです。
そうなってくると、あまり丁寧には教えてもらえないにも関わらずとにかく頼まれた仕事を必死にこなさなければいけないという状況が出てきてしまうことがあります。
先が見えない恐怖
先輩社員が忙殺されていて、しっかりと教育をしてもらえないと、とりあえず仕事を頼まれるというような状況になります。
やり方はさすがに教えてもらえるので、作業を進めることはできるかと思いますが、その作業は一体どのくらいの量があって、どのくらいの時間がかかるのか、そして全体の業務の中のどの部分を自分が今やっているのかが全く想像出来ないということも出てきます。
私も新人時代には、同じような経験をしたことがあるのですが、先が見えない中で作業を進めるというのは意外にストレスがかかるものです。
そしてドロップアウト
先が見えない作業を依頼されることは、どうしても時々はあるかと思うのですが、その状況が続いたり、残業をしている時間帯にそのような状況が起きてしまうと精神に与えるダメージは大きくなります。
ギリギリで精神的に持ちこたえていたとしても、CRAの場合はトドメを刺してくるものがあります。
それは、外勤です。
立ち上げ時期は、治験実施医療機関で治験についての説明会(業界ではスタートアップミーティングと呼ばれています)を医師や看護師などの医療スタッフ向けにする必要があります。
スタートアップミーティングは、医師なども多く参加するため、そこで説明をするというのはCRAの仕事の中でも、トップを争うレベルで緊張する仕事です。
その役割を、勉強のため、新人や未経験の中途社員にお願いすることもあるのですが、そのためにはしっかりと社内で発表の練習や質疑応答の対策などをして万全の状態にしてから仕事を任せるのが普通です。
ところが、先輩CRAがあまりにも忙し過ぎて業務に追われてしまっている場合、ほとんどプレゼンの練習を見てもらえず、かなり不安な気持ちでスタートアップミーティングでの発表をするというシチュエーションもあったりするのです。
スタートアップミーティングでの発表はCRA経験差であっても負荷が大きいので、新卒や未経験中途社員の場合は、ここで心が折れてしまい、ひどい場合だと休職ということになってしまいます。
復帰後も続く地獄
精神的に疲労が溜まってしまい、休職をしてしまった場合でもなんとか職場復帰できる方もいます。ただ、職場に戻って来てからも落とし穴は潜んでいます。
それは暇すぎるということ。
精神を病んで復帰した場合、いきなりまたプロジェクトに配属されるというよりは、以下のようなステップで復帰を目指すのが一般的です。
●まずは会社まで出社することに慣れる(出社時間に入口まで行って帰る)
●慣れてきたら定時の間、机に座っていることに慣れる(まだ業務はしない、自己学習)
●それも慣れてきたら徐々に業務に復帰する。
一度精神的に参ってしまって休職をした社員は、次にも同じようにならないように会社側は物凄く慎重になります。
もっと具体的に言うと、忙し過ぎるプロジェクトに配属されて精神を病み休職をした場合、忙しくなくじっくり学ぶことができるプロジェクトへ配属しようとするわけです。
「忙し過ぎずしっかり学べる環境があるのは良いことでしょ!」と思うかもしれませんが、それはすぐにそういうプロジェクトが見つかって無事に配属された場合です。
適当にプロジェクトに配属して、また精神的に病んでしまったら会社側の責任にもなるので、とにかく慎重に配属するプロジェクトを決めようとした結果、なかなか見つからず、プロジェクトにアサインされるまでの期間が長くなってしまうということもあるのです。
アサインされまでの間は、ひたすら自己学習になるので、あまりにも暇すぎて辛い状況になってしまいます。
実は、私も1社目のCROではあまりにも暇すぎて転職を決意したことがありました。
暇なのにお金が貰えるから楽と思われることもありますが、暇すぎるというのは案外辛いものなのです。
未経験でCROに入社して成功するために
未経験でCROに入った場合に失敗してしまうケースをお話しましたが、大事なのはここからです。
失敗してしまうケースを予め知っておけば、そのリスクを下げるアクションを取ることができます。
これからCROに転職を考えている未経験者の方には是非リスクが少しでも下がるアクションをしていただきたいと思っています。
リスクを下げるには、会社説明会や人事へ質問をして、転職しようとしている会社の体制や考え方を知っておく必要があります。
今回は、「十分な教育をしてもらえる現場に投入されて精神が病んでしまう」というパターンをお話しましたので、それを例にとっておすすめの質問を考えてみました。
未経験の中途を採用しようとした背景を質問する
基本的には、受注できる案件数を増やためにリソースの確保が必要で、そのために未経験の中途を採用するといったパターンが多いと思いますが、実はもう1つ、会社が表に出して言いにくい理由があったりもします。
それは、炎上プロジェクトがあり人がごっそり辞めてしまったことによる人員補充です。
炎上プロジェクトの場合、例えば以下のような悪循環が起こります。
●5人のCRAで、1人3施設を担当していた。
●炎上して2人のCRAが辞めてしまった。
●辞めた2人の施設を残された3人のメンバーに振り分け。
●残された3人のメンバーは1人5施設に増える。
●キャパオーバーとなり、残された3人もドロップアウト。
●別のチームから緊急でCRAを補充する。
●炎上を消化するのに疲弊して辞めていく。
上記で言うと、炎上して2人のCRAが辞めてしまったときにその補充として未経験の募集をすることがあったりするということです。
もちろん、こんな状況であれば、経験者の中途を採用したいのですが、そう簡単には集まらないので、とにかく人手をということで中途にも枠を広げることがあるということです。上の例ですと、残された3人のメンバーに”未経験者だけどサポートを付けるから5施設頑張ってくれ”というようなイメージです。
言うまでもなく、このような炎上プレジェクトに未経験者が配属されれば物凄く大変な思いをしてしまいます。なので、未経験で中途社員として入社をするのであれば、なんとしても避けたいところです。
そこで、人事に質問をする訳ですが、ストレートに「炎上プロジェクトの人員補充ですか?」と聞くわけにはいきませんよね?
なので、遠回しに「他のCROではなかなか未経験の採用をしていなかったのですが、御社は何故未経験者の募集を始めたのでしょうか」という感じで聞くのが良いかと思います。
当然、面接官側も「炎上しているプロジェクトの人員補充です」と堂々とは言ってきません。(自分の会社はブラックですと言っているようなものですからね…)
そこは、面接官の受け答えや表情などから本当のことを言っていそうかある程度見極める必要があります。
面接では、こちら側が見られているように感じますが、こちらも相手をしっかり見極めることが重要です。
未経験の中途をCRAとして育てるプランについて質問する
1つ前の質問で、なぜ中途の採用を始めたのかを聞きましたが、恐らく「今後会社として受注できるプロジェクトを増やすために人員を増やしてリソースを強化している」というような内容の回答をしてくるでしょう。
私だったら、次に「未経験でも勉強をしてCRAとしてしっかりと業務をこなしていく意欲はありますが、本当にやっていけるか不安もあります。
御社では、未経験の方はどのようなステップでCRAとしてのスキルを身に着けるのでしょうか」と質問をします。
将来的にプロジェクトを拡充するための人員補充であれば、プロジェクトを受注するまでの間に戦力になるように育てる必要があります。
そのため、未経験の中途の育成プランについては普段からしっかりと考えているはずなので、面接官は簡単に答えられなければいけません。
もし炎上プロジェクトへの配属を想定していて、とにかく人手が欲しいという状況であれば、ろくに育成プランも考えていないはずなので、面接官からの回答はモヤモヤした内容になることでしょう。
転職エージェントをうまく使って有利に情報収集
上記で紹介した質問事項はほんの1例になります。
人によっては、質問をしたくても「人事に直接聞くのはちょっと聞きにくい…」という方もいるかと思います。
そんなときには、転職サイトを利用してエージェントから情報を入手するのも良いでしょう。
転職エージェントは、営業のために色々な会社を回り常に新しい情報を入手しています。実際、私も転職エージェントを使って転職をしましたが、当時所属していたCROの内部事情もよく知っていてとても驚いたことがあります。
というのも、私みたいに転職を考えている人が同じCROにいたらしく、その人から得た情報もエージェントは持っていたので内部事情を知っていたようです。
また、面接のあとにエージェントは必ず面接を受けた会社の担当者と連絡を取るので、もし直接聞きにくいことがあったらエージェントに実はこういうことを聞きたかったけど聞きにくくて聞けなかったと相談をすれば、代わりに聞いてくれることもあるでしょう。
転職は人生を左右する大事なことなので、使えるツールは有効に使っていきましょう。
ただ、もし転職エージェントを使う場合には、しっかりとした専門チームを持っている転職エージェントにすべきです。
CRAの仕事というのは、専門性がとても高いので専門のチームでしっかりとした知識が無いエージェントに頼むのは正直怖いです。
私が使っていた転職エージェントでは専門のチームがあるようで安心してお任せすることが出来ました。
まとめ
未経験でCROに転職してきている方は結構いる印象で、未経験から転職をしてCRAとして経験を積んでプロジェクトリーダーになっている方も多くいます。
私も看護師から未経験でCROに転職をしてCRAとして経験を積んでリーダーになった方の下に就いたこともあります。
未経験であってもCRAに求められる能力と共通する部分はあり、チャンスの幅が大きいのがCROだと思っています。
ただその分、今回の記事でも書いたように未経験でCROに入社するときには気を付けなければいけない点もあったりします。
リスクを0にすることは不可能ですが、知っていればリスクを軽減できることもあるので、未経験からCROにチャレンジする方は是非リスクマネージメントをしたうえで挑んでいただければと思います。