治験の重複登録は、ばれる?ばれない?

参加することで負担軽減費が貰える治験。

そんな治験になるべく効率良く参加したいと思っている方も少なからずいるかと思います。

しかし、治験は一般的に重複して参加することや短期間のうちに連続して参加することは禁止されている場合がほとんどです。

もし禁止事項を破って治験に重複で参加した場合、ばれるのかばれないのか、そして重複で治験に参加した場合にどのようなことが起こるのかを紹介していきます。

治験の参加登録

まず、治験参加者の情報をどのように管理しているのかといったところから見ていきましょう。

開発相調査内容対象
第I相安全性・薬物動態健康成人男性
第II相用法用量・有効性・安全性少数の軽度の患者
第III相有効性・安全性多数の軽度~重度の患者

 治験には、上記の通り第I相~第III相といった種類があります。

 いずれの相の治験でも治験参加者の情報はしっかりと管理されているのですが、その中でも健常人が対象の第I相の治験では採血が多いデザインの治験が多いため、重複登録については特に慎重に管理されています。

 そんな第I相の治験で重複登録や短期間での参加があったらどうなるか?

 当然、短期間に血を抜かれてしまうと体に大きな負担がかかりますし結果として何かしらの健康被害が生じてしまう可能性が出てきますよね。

 そのため、第Ⅰ相の治験は臨床試験受託事業協会(臨試協)に照会をして確認する場合があります。

 臨試協で管理できる範囲は臨試協に登録している機関で実施される治験に限るので必ずしも重複登録がばれるといったわけではありませんが、重大な健康被害にも繋がる恐れがあるため、個人的には絶対におすすめしません。

 重複登録の実態

臨試協に掲載されているデータを覗いて見ると、年間でどれだけの重複登録があるかが分かります。

臨試協の二重登録防止件数一覧

二重登録防止件数一覧|臨床試験受託事業協会より一部抜粋

この結果から、毎年大体登録件数の1割程の重複登録があることが分かります。

実際には、発覚していない事例もあるかと思うので、1割よりも多い重複登録があると予測できますが、製薬メーカー側の立場である私から見たらそのような方に健康被害が出ないかヒヤヒヤものです…。

重複登録による悲劇

重複登録をすることで、健康被害が生じる可能性があることには触れましたが、その他にも補償を受けられなくなってしまう等、様々な不都合が生じてしまう可能性があります。

重複登録をすることで起きてしまう悲劇について見ていきましょう。

健康被害が生じる可能性がある

上記では、血液を短期間に大量に抜いてしまうことによる健康被害についてお話をしましたが、それ以外にも薬の飲み合わせにより健康被害が生じてしまう懸念もあります。

食べ合わせでも“天ぷらと氷を一緒に食べたらお腹が痛くなる!”というようなものがありますが、薬の場合はそんな生半可なものでは留まらないこともあります。

薬の飲み合わせでは、1993年に起きたソリブジン事件という有名な出来事が起きました。

帯状疱疹の治療薬であるソリブジンと5-FU系抗がん剤を併用した際に重篤な血液障害が発現し、治験段階では3名の死者が出てしまいました。

治験に参加する際には、必ず医師が併用薬の確認をおこない、飲み合わせについて問題無いことをチェックしますが、このときに他の治験に参加していることを隠して申告しないと医師は飲み合わせに問題が無いか確認出来ないことになってしまいます。

補償を受けられない可能性がある

治験に参加した際に、治験薬や治験でデザインされている手順に関連して健康被害が生じた場合は、補償を受けられる場合があります。

しかし、補償を受けるにも条件があり、「被験者自身の故意によって健康被害が生じた場合は、補償の対象外である。」というような条件を設定している場合が一般的です。

治験の重複登録は禁止であることは、治験に参加した際に説明されるはずですので、それにも関わらず重複登録をおこなった場合は、補償の対象外になってしまう可能性もあります。

重複登録で健康被害が生じてしまったうえに、補償まで受けられないとなってしまったらそれこそ大変なことなので、やはり重複登録についてはおすすめできません。

ちなみにですが、治験に参加する場合には同意説明というものがあり、補償について書かれている資料はその際に渡されるはずですので、そちらで詳細を確認できます。(もし受け取っていないという方がいましたら、治験コーディネーター(CRC)に言えば貰えるはずです)

HP上にある重複登録の裏ワザの盲点

そんなこんなで、重複登録についてはおすすめしていないのですが、ネット上で色々と検索してみると重複登録してもばれない裏ワザ的な記事も見かけるので、その盲点についても解説しておきます。

そのように紹介されている裏ワザは、先ほど紹介をした臨試協に所属していない医療機関で治験を受ければ良いという趣旨のものが多いように感じます。

確かに臨試協に所属していない医療機関であれば、被験者照合システムを使用することが出来ないため、この方法ではばれないかもしれません。

しかし、残念なことにそううまくはいきません。何故かは、治験に多数参加されている方であれば気が付くかもしれません。

臨試協に所属している医療機関を見てみると、第Ⅰ相試験(健常者対象の治験)を積極的に実施している医療機関(俗に言う治験施設)の有名どころが軒並み登録しています。

つまり、臨試協に所属していなくて、かつ治験を実施していて、かつ第Ⅰ相試験(健常者対象の治験)をやっている医療機関となると、数はかなり絞られてしまうということです。

例え上記の条件に合致するような医療機関を見つけたとしても、血液検査の結果などから他の治験に参加していることが分かる場合もあります。(通常では上がらないような数値が上がっているなど)

まとめ

治験はよく「高額バイト」と紹介されていることがありますが、あれは表現的には間違っていて、アルバイトではなく「ボランティア」です。

ゴミ集め等のボランティアと比べ、通院が必要で交通費がかかってしまったりと負担が多くかかってしまうため、その負担を軽減する目的で、ボランティアの方には負担軽減費としてお金が支払われます。

治験で貰えるお金というのは、治験に参加したことによる対価ではなく、あくまで負担を軽減するために支払われるものになります。(時々「治験協力費」という呼ばれることもありますが、意味合いは同じです)

そして、治験に参加するということは、「薬の開発のためにデータを提供するボランティアに参加する」ということです。

みなさんが普段病院で貰うお薬も、痛み止めで有名なロキソニンも花粉症のお薬も全て治験を経て販売されています。

今まで治せなかった病気が薬で治せるようになったものもあります。

病気に苦しんでいて新薬を待ち望んでいる方もたくさんいるでしょう。

そんな患者さんたちのために、提供してもらうとても貴重で重要なデータを治験で集めることになります。

治験に重複登録をしたり、規定よりも短い期間で治験に参加することは、正確な有効性や安全性のデータが取れなくなってしまうことに繋がります。

ご自身のためというのはもちろんのこと、新薬を待ち望んでいる患者さんのためにも重複登録や規定よりも短い期間での治験の参加は止めるべきです。