
“治験の募集は男性ばかりで女性の募集が少ない!”
治験の募集を見てみてそう感じた女性の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、製薬メーカーで働いている筆者の視点から、女性の治験の募集が少ない理由と女性でも参加できる治験の情報などをご紹介していきます。
そもそも本当に女性の募集は少ないの?
治験には、一般的に健康な方を対象にする第Ⅰ相の治験と、疾患を持っている方が対象の第Ⅱ相、第Ⅲ相の治験があります。
実は、この治験の種類によって女性の募集は大きく異なってきます。
それぞれの治験の種類の特徴と募集の数について見ていきましょう。
開発相 | 調査内容 | 対象 | 女性の募集 |
第Ⅰ相 | 安全性・薬物動態 | 健常成人 | 少ない |
第Ⅱ相 | 用法・用量 | 軽度な患者 | 男性と変わらない |
第Ⅲ相 | 有効性・安全性 | 軽度~重度な患者 | 男性と変わらない |
※上記の表には、主な内容を記載しています。
上の表からも分かるように、健康な方を対象にしている第Ⅰ相の治験では女性の募集が非常に少ないのですが、第Ⅱ相と第Ⅲ相の治験であれば女性の募集は男性の募集と同じくらいあることが分かるかと思います。
つまり、健康な方が対象となる治験(第Ⅰ相の治験)で女性の募集を探そうとすると、なかなか見つからないけれど、不眠症や便秘など何かの症状がある方が対象となる治験(第Ⅱ相や第Ⅲ相の治験)であれば、女性の募集も男性と変わらずにあるということです。
とは言っても、なかなかイメージが付かないこともあるかと思うので、2020年12月01日時点での第Ⅰ相~第Ⅲ相の治験の募集数と美容・健康食品モニターの募集数をまとめてみました。(調査は、治験募集サイト大手の生活向上webを使用)
開発相 | 女性 | 男性 |
第Ⅰ相 | 0件 | 11件 |
第Ⅱ/Ⅲ相 | 13件 | 11件 |
美容・健康食品 | 10件 | 7件 |
具体的な数字を見てみてもやはり第Ⅰ相の治験での女性の募集は非常に少ないですね。
その為、参加できる可能性が高い案件としては、疾患のある方対象の治験(第Ⅱ相、第Ⅲ相)か、美容・健康食品モニターということになります。
女性の治験が少ないと思われる理由
「治験」というのは、世間一般のイメージでは一定期間入院をして、高額な負担軽減費(治験に参加することによって貰えるお金のことです)が貰えるものだという印象が強いかと思います。
よくみなさんが言うところの「治験のバイトをしてお金を稼ぐ!」というときに使う「治験」などは、まさにそのイメージかと思います。
この高額な負担軽減費というのは、第Ⅰ相の治験で設定されている場合が多く、この第Ⅰ相の治験を女性が探した場合に、“女性対象の治験が少ない”と感じられるのかと思います。
また、第Ⅰ相の治験で女性の募集が少ない理由は、製薬会社が治験の計画を立てるときに参考にする厚生労働省から出されている「新医薬品の臨床評価に関する一般指針」というガイドラインの中に以下のような文言があるためだと考えられます。
第Ⅰ相試験は、治験薬を初めてヒトに適用する試験で、原則として少数の健康男性志願者において、治験薬について臨床安全用量の範囲ないし最大安全量を推定することを目的とし、あわせて吸収・排泄などの薬物動態学的検討を行ない、第Ⅱ相試験に進み得るか否かの判断資料を得るための試験である。
厚生労働省 「新医薬品の臨床評価に関する一般指針」より
特別な理由のない限り、健康成人男子志願者を対象とする。
被験者については適切な 理学的、生化学的健康診断検査を行い、治験薬の性質と試験内容 (すなわち試験意義、目的、方法、予想される薬効・副作用、随意の参加の撤回及び事故に対する補償など)を十分理解させた上で、試験に対して自発的な意志で参加する旨の同意書を得る必要である。
厚生労働省 「新医薬品の臨床評価に関する一般指針」より
製薬会社は、ガイドラインに従い治験の計画を立てていくため、ガイドラインで第Ⅰ相試験は、原則として健康男性志願者が対象と記載されていればそれに従います。
特に妊娠の可能性のある女性については、以下のようにも記載されています。
一般に、臨床試験の初期においては、妊婦及び妊娠している可能性のある女性は被験者から除外しなければならない。
妊婦及び妊娠している可能性のある女性に用いられる治験薬の場合には、これらを被験者としない第Ⅱ相試験で有効性と安全性について適切な情報が得られ、さらに動物を用いる生殖試験の全てが終了した後に試験が組まれるべきである。
投薬中に妊娠した場合には、胎児についても追跡検討を行う必要がある。また可能な限り治験薬又はその代謝物の乳汁中への移行についても検討すべきである。
なお、妊婦及び妊娠している可能性のある女性に対してのみ使用される医薬品については、第Ⅰ相試験から女性について試験を行うが、試験の進め方については、これまでの記述を参考として慎重に行う必要がある。
厚生労働省 「新医薬品の臨床評価に関する一般指針」より
女性への治験薬の投与は、赤ちゃんに対する影響や、治験薬などが乳汁に及ぼす影響などについて、十分に動物実験で確認されたうえで慎重にすべきとガイドラインにも書いてあります。
その動物実験の結果で胎児に悪影響を及ぼさないことが確認出来たら、女性の募集もされ始めるため、第Ⅱ相の治験から徐々に女性の募集も増えてくるということなのでしょう。
女性でも参加できる治験は?
さて、治験の募集事情を知ったところで、次は女性におすすめできるような治験や女性でも参加できる治験について詳しくお話をしていきます。
実は、今まで治験のお話をずっとしてきた訳ですが、治験と似たようなもので臨床試験というものがあります。
治験は、医薬品や医療機器の開発をするときにおこなうものですが、臨床試験は健康食品や化粧品を開発するときにおこなうものです。
治験も臨床試験も、有効性や安全性を確かめるという目的では同じです。
そして、参加することで負担軽減費(協力費)が貰えることも共通しています。
臨床試験は、治験よりも参加基準が緩い場合が多く、女性の募集も比較的されているので、女性は臨床試験(健康食品モニターや化粧品モニター)を狙ってみるのも良い方法です。
それぞれで貰える負担軽減費の一例をご紹介します。
種類 | 回数等(例) | 協力費(目安) |
治験(通院) | 10回 | 100,000円 |
臨床試験(入院) | 5泊 | 115,000円 |
健康食品(在宅) | 30日間使用 | 20,000円 |
健康食品(通院) | 5回 | 50,000円 |
化粧品(在宅) | 30日間使用 | 20,000円 |
化粧品(通院) | 3回 | 30,000円 |
女性の場合、入院をして参加する治験はほぼありませんが、臨床試験であれば募集をしている可能性があります。
例えばですが、「健常成人女性の1週間の血圧値のモニタリング」みたいな臨床試験であった場合、1週間入院をして、血圧測定器を装着され、データを取るみたいなものも考えられます。
これは治験とは違い、研究論文を出すためのデータの取得という意味で使われるので、臨床研究というものなので、件数は多くありませんが、どこかの研究機関や大学の研究室でデータが必要になった場合などに募集されることがあるかもしれませんね。
ということで、入院が必要な臨床研究のようなものである場合は、件数が少ないかと思うので、見つかったらラッキーで、基本的には、第Ⅱ・Ⅲ相の治験だったり、化粧品や健康食品のモニターを探してみるのが良いかと思います。
ちなみにですが、女性では、「生理痛」、「不眠症」、「リウマチ」、「慢性便秘」などの疾患が対象の治験は応募数も多く、人気化している印象です。
しかも、治験薬を飲んでいる期間中に治験に参加している施設でやった検査や画像診断の費用は無料になります。(正確には製薬会社が負担しています)
なので、何か気になっている疾患がある場合は、費用面でもメリットがあるということです。
おすすめの治験募集サイト
管理人おすすめの治験募集サイトをご紹介しておきます。
ここでご紹介するサイトであれば、今まで紹介していたような第Ⅱ相や第Ⅲ相の治験、健康食品モニター、化粧品モニターや臨床研究のモニターなど、女性が参加できる案件の募集もあります。
もちろん、紹介する治験募集サイトは全て登録費用等無くすべて無料で利用できるので、ご安心くださいね!
生活向上Web
3Hクリニカルトライアル株式会社が運営する治験募集サイトで、治験募集サイトの中では最大手に分類されるサイトです。
私自身、生活向上WEBを使って治験に応募をして参加したこともありますし、逆に薬を開発する立場として、生活向上WEBを使って治験に協力してくれる方々を募集したこともあります。
組織として非常にしっかりとしているので、安心して使うことができる治験募集サイトになります。
私の知る限り、扱っている案件の数は最大級で、治験だけではなく、健康食品モニターや化粧品モニターの募集もしているため、薬を飲むことに抵抗がある方でも色々な選択肢を見つけることができるところが魅力的です。
ニューイング
ニューイングは、2001年6月に創立されたNPO(非営利団体)法人で、治験募集サイトの最大手である生活向上Webより長い歴史を持っています。
案件の数はそれほど多くは無いのですが、時々他には無い案件を取り扱っていたり、注目すべき治験募集サイトになります。
2020年7月31日時点で、治験ボランティアの会員数も11万人を突破しており、多くの方が登録されている治験募集サイトの1つです。
まとめ
今回は女性の治験・臨床試験についてお話をしていきました。
治験などは、この記事でもご紹介した通り、色々な厳しい決まり事もあり、治験に参加される方の安全性についてかなり配慮されています。
そのため、胎児への影響もある女性の場合は、安全性の観点から治験への参加も制限されてしまっています。
しかし、逆に安全性についてのデータが比較的集まった状態で治験に参加することになることが多いため、そう考えると、健常人男性が参加する治験よりもより安全と考えることも出来るかもしれません。
薬を待ち望んでいる患者さんの為にも治験に協力していただける方が増えれば嬉しいなと思っています。
また、「治験って怪しくない…?大丈夫…?」と不安な方は私のTwitterも覗いて見て下さい!
医薬品開発の仕事をしている方は高い意識で仕事に取り組んでいるのですが、百聞は一見に如かずですからね!