混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩

2022年4月から不妊治療のうち、タイミング゙法、人工授精、体外受精、顕微授精、男性不妊の手術が保険の適用範囲となり世間一般でも保険診療に対する関心度が増しているところかと思います。

しかし、保険適用の仕組みはやや複雑で一般の方はもちろん、仕事で使用するCRAやCRCさんでも新人うちは苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか?

今回は、治験では避けて通れない保険外併用療養費制度の理解を深める第一歩として、その制定の背景などから分かりやすく説明をしていきたいと思います。

診療方法の種類

皆さんが病院にかかると診療を受けるわけですが、この診療方法には、公的医療保険(国民健康保険や社会保険等)が適用される保険診療と適用されない自由診療の2種類があります。

保険の適用とするかどうかは、厚生労働省により設置されている中央社会保険医療協議会(「中医協」と呼ばれています)で安全性と有効性等を科学的根拠に基づいて議論して決められます。

つまり、保険診療はその安全性と有効性が国に認められている医療ということですね。

一方、自由診療は医師が推奨する独自の検査方法、治療方法や海外では承認されているものの日本では未承認の薬を使用した医療などのことを指します。

そして、この保険診療と自由診療を一緒に行うことは混合診療と呼ばれており、日本では禁止されています。

もし混合診療をどうしても受けたいという患者さんがいる場合、保険診療の部分まで保険が適用されないこととなり、全てが10割負担となってしまいます。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩①-min

この場合、「検査Aと手技Aは元々保険適用なので、その部分は3割負担として、自由診療で行った手技Cについてのみ10割負担として良いのでは?」と思いませんか?

実は、このお話は、平成25年11月19日に行われた第20回規制改革会議でも非常に激しい議論が繰り広げられました(長いですよ!)。

「混合診療は禁止されている」ということまでは教科書等によく書いてあることですね。では、なぜ混合診療は禁止されているのでしょうか?

ゆっくり考えていくことにしましょう。

診療の種類
保険診療…安全性や有効性等が国に認められており、保険が適用となる医療
自由診療…安全性や有効性等が国に認められておらず、保険が適用とならない医療
混合診療…保険診療と自由診療を組み合わせた医療

混合診療が禁止されている理由

混合診療が禁止されている理由は大きく分けて「患者さんに不当な医療行為がなされないため」「患者さんを経済的負担から守るため」であると厚生労働省のHPで説明されています。

もちろんその2つが理由なのでしょうが、その前段階として「公費を安全性や有効性等が担保できていない診療に支払うことは適当ではない」という前提があります。

いきなり、「患者さんに不当な医療行為がなされないため」と「患者さんを経済的負担から守るため」という理由について考えていくと分からなくなってしまうので、先に前提である「公費を安全性や有効性等が担保できていない診療に支払うことは適当ではない」という前提の部分から説明をしていきます。

公費を安全性や有効性等が担保できていない診療に支払うことは適当ではないため

国としてはある疾患の診療を行う際は、国によって安全性や有効性等が確認されている保険診療を推奨しています。

つまり、ある疾患の診療をする際に必要な一連の医療は保険診療でカバーできるとされているわけですね。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩②国の推奨する形としては、上の絵のように保険診療のみで構成されたパターンということですね。

では、混合診療が禁止ではなかったらどのようなことが起こるか考えてみようと思います。

ある先生は治療薬Aと治療薬B(日本:未承認、海外:承認)を組み合わせて服用する方がより高い効果が得られると考えていたため、治療薬Bとの併用を考えたとします。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩③

このような形になりますね。

国としては、検査A+手技A+治療薬Aの組み合わせで、安全性と有効性等が確認されているので良しとしましたが、ここに日本で有効性や安全性等が確認されていない治療薬Bが加わるとどうなるでしょう。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩④安全性や有効性等が確認されていないものと組み合わせてしまうと、元々も安全性や有効性等が確認されていた医療に対しても影響を及ぼす可能性も出てきてしまうのです。

まとめて考えると分かりにくいと思いますので、治療薬Aと治療薬Bだけで考えてみると以下のようになります。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑤治療薬A単独である場合と、治療薬Bと組み合わせた場合とでは状況が異なることが分かるかと思います。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑥本当は、それぞれの組み合わせで安全性や有効性等が確認出来るかを1つ1つ調べて特定できれば良いのですが、それらを保険請求の段階で確認することは不可能です。

そのため、以下のように一括で判断されるため、保険診療の分が全て10割負担となります。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑦保険は皆さんが毎月支払っている保険料から支払われるので、公費からの支払ということになります。

その公費を、“安全性や有効性等が担保されていない医療に対しても使用することはいかがなものか…”、そのように国が考えたということですね。

患者さんに不当な医療行為がなされないため

自由診療を取り入れる場合、患者さんが色々と調べて希望される場合と医師から選択肢を提示される場合があります。

患者さんの立場になって考えてみて下さい。

保険診療では、ある疾患に対しては手技Aが保険適用でしたが、先生から手技Cも有効だから併せてやってみましょうと言われたとします。

医学的な知識がある患者さんは少数派であるため、先生に進められるがままに良く分からずその提案を飲んでしまうこともあるでしょう。

この時、混合診療が禁止でなかったらどうなるでしょうか。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑧混合診療が禁止でないとすると、患者さんの負担は検査Aと手技Aの3割と手技Cの10割となります。

国としては、自由診療の実施は推奨していません。

自由診療は、「安全性や有効性が確認されていない医療」とされているため、そのような医療を患者さんに行うことについては良しとはしていないのです。

そこで、混合診療を禁止とするとどうなるか見てみましょう。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑨混合診療が禁止となると、手技Cと組み合わせて実施した検査Aと手技Aの費用は保険適用外となります。

そのため、医療機関は保険請求が出来なくなるため、検査Aと手技Aと治療薬Bの費用を10割負担で患者さんに請求することになります。

手技Cの10割負担分だけならまだしも、検査Aも手技Aも保険が効かずに10割となってしまうと高額になる可能性が高くなります。

そうするとどうなるか…

患者さん側もさすがに自由診療ではなく保険診療を選ぶはず…

そう考えることができるわけです。

保険診療を選ぶ割合が増える(=自由診療を選ぶ割合が下がる)ということなので、結果的に科学的に根拠がない不当な医療を減らすことが出来るという考え方です。

しかし、この考え方には、「そもそも、自由診療として不当な医療を進める医師なんているのか」、「患者さんが自ら望んで自由診療を選んだ場合でも、保険が効かなくなるのは自由診療を選択したペナルティなのか」、「患者さんの治療の選択肢を狭めているのではないか」など、色々な反対意見も多いのが実情です。

患者さんを経済的負担から守るため

混合診療を禁止とするもう1つの理由が「患者さんを経済的負担から守るため」とされています。

これはどういうことか?

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑩1958年の国民健康保険法によって「誰でも」、「どこでも」、「いつでも」、適切な医療サービスを全国民が受けられることが定められ、1961年に日本の国民皆保険制度が実現しました。

医療は患者さんのお金の有無で区別するものではないという考えから、必要な一連の医療には保険が適用される仕組みになっています。

しかし、もし混合診療が禁止されていなかったらどうでしょうか?

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑪本来、必要な一連の医療は保険適用内でまかなえるはずが、自由診療を行うと高額になってしまうおそれがあります。

これが混合診療を禁止とした場合、以下のようになります。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑨先ほど「患者さんに不当な医療行為がなされないため」に出てきた絵と同じです。

仕組みは同じで、混合診療を禁止とすることで検査Aと手技Aの費用を保険請求できなくなるので、患者さんに請求をしようとするものの断られるケースが増え、結果的に保険診療内での診療となる(=患者さんの経済的負担も減る)という考え方です。

ただ、世の中そんなうまくいくものか…とも個人的には思うのです。

検査Aと手技Aと治療薬Bが全て10割になるわけですが、患者さんが拒否をして保険診療で診て欲しいと言うならまだ良いのですが、そのまま10割で全ての医療を受けてしまったら…

逆に患者さんに経済的負担が増してしまう…ということにもなりかねないのですよね。。

混合診療を部分的に認める制度・保険外併用療養費制度

混合診療が禁止とされている理由を長々と話してきましたが、では混合診療は本当に禁止すべきなのでしょうか?

患者さんの中には以下のような方もいるかと思います。

ある難病を患っており、日本では保険適用されていない手技(手技Cとします)での処置を希望している。

その手技は海外では論文等でしっかりと安全性と有効性が検証されたデータがある。

しかし、日本では安全性と有効性が確認できていないため、自由診療扱いとなる。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑬日本では混合医療が禁止されているので、全ての項目が10割負担となってしまいますよね?

でも、これってどう思いますか?

手技Cは、海外でしっかりと安全性と有効性が確認されているにも関わらず、日本で確認されていないというだけで、「安全性や有効性等が日本で確認できていない」→「混合診療の禁止に則り、検査A、手技A、治療薬Aも10割負担ね!」は、さすがにひどいと思いませんか?

検査A、手技A、治療薬Aについても10割負担となってしまったら、患者さんからしたら経済的負担が大きすぎて手技Cを諦めてしまうかもしれませんよね。

先ほどは、この“保険診療内でのみの選択をする”ということが良い方向(不当な自由診療の抑制)に働きましたが、このパターンでは逆に弊害になってしまっているのです。

つまり、自由診療を全て“科学的に根拠のない不当な医療”と考えることは適当ではないということになります。

ということで、混合診療を部分的に認める制度として保険外併用療養費制度が誕生しました。

保険外併用療養費制度では、保険適用外であるうちの評価療養と選定療養に限って保険診療との併用を認めています。

評価療養とは?

評価療養とは、将来的に保険導入のための評価を前提としたもので、先進医療や治験が該当します。

この評価療養と保険診療の併用が認められているため、治験参加中も保険が適用されることになっているということですね。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑭評価療養には以下のような項目があります。

評価療養の一例
先進医療
医薬品、医療機器、再生医療等製品の治験に係る診療
医薬品医療機器法承認後で保険収載前の医薬品、医療機器、再生医療等製品の使用
薬価基準収載医薬品の適応外使用
保険適用医療機器、再生医療等製品の適応外使用

選定療養とは?

選定療養とは、通常の医療費に+αの費用を支払うことで快適さを得るなど、患者さんの嗜好によって選択される側面が強いもののことです。

“入院をする時には個室でゆったりと過ごしたい!”と思い、差額ベッド代を支払うこともこの選定療養に該当します。

ちょっと快適さを得たいだけなのに、他の検査や手技の費用まで全て10割負担となってしまったらたまりませんよね…

なので、この選定療養は保険診療と組み合わせる混合診療が認められているのです。

混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩⑮混合診療を禁止する理由は、「保険適用外の医療が保険適用の医療にまで影響を及ぼし、安全性や有効性が担保できなくなるため」ということでした。

“個室にしたい”等は、そもそも医療ではないですし、治療薬の効果やその他の手技に悪影響を及ぼす可能性は限りなく低いので、混合医療が認められているということですね。

患者さんが+αで求めている快適さ等について国が制限をするのもおかしな話ですからね。

選定療養には以下のような項目があります。

選定療養の一例
特別の療養環境(差額ベッド)
歯科の金合金等
金属床総義歯
予約診療
時間外診療
大病院の初診
大病院の再診
小児う蝕の指導管理
180日以上の入院
制限回数を超える医療行為
水晶体再建に使用する多焦点眼内レンズ

まとめ

保険診療と保険外の診療を組み合わせる混合診療は日本では禁止とされています。

しかし、「保険外の診療」というのはとても幅広くて、一括りに「安全性や有効性が担保できていない医療」として整理してしまうことは出来ません。

そこで、“将来有効性や安全性が保険導入のために評価されることを前提としている評価療養”と“保険診療の安全性や有効性に影響を及ぼす可能性は限りなく低く、患者さんの嗜好で患者さんが選定する医療の選定療養”については保険診療との併用が認められています。

これが、保険外併用療養費制度ということでした。

今回の記事では、評価療養費と選定療養のお話をしましたが、実はもう1つだけ保険診療と併用できる患者申出療養というものがあります。

これは、簡単に言うと保険外の診療を患者さんが望んだ場合、先生と相談をした上で国に保険診療との併用を申請できる仕組みになります。

評価療養と選定療養は国で決められていますが、患者さん主導でも話を聞いてもらえる制度もあるということです!

患者さんからの申し出を聞くシステムの新たな導入は治療の幅を広げることに繋がるので患者さんにとってプラスの制度ですよね。

さて、次回の保険外併用療養費制度の記事では、いよいよ治験と絡めて紹介をしていこうと思います。

引き続きご覧いただけますと嬉しいです!