2024年1月31日の中医協総会で「プログラム医療機器についての評価療養の新設」について議論されました。
しかし、一般の方にはプログラム医療機器が評価療養とされることで一体どのようなメリットになるのかを具体的にイメージできる方は少ないことでしょう。
今回の記事ではその辺りのことを分かりやすく解説していきたいと思います。
医薬品開発業界でかれこれ10年以上働いています。X(旧Twitter)でのフォロワー数は5,000人程。今回も分かりやすさを重視して解説をしていきます!
※本記事は筆者の個人的な見解も含んでいます。投資は自己責任でお願いします。
プログラム医療機器が評価療養へ
2024年1月31日に実施された第582回中医協総会の「個別改定項目(その2)について」では、プログラム医療機器のイノベーション促進のために以下の方針が示されました。
イノベーションの促進の観点から、一般的に侵襲性が低いプログラム医療機器の特性も踏まえつつ、薬事上の第1段階承認を取得したプログラム医療機器及びチャレンジ申請を行うプログラム医療機器の使用又は支給について、評価療養として実施可能とする。
出典:第582回中医協総会「個別改定項目(その2)について」より
ただ、日本の保険制度の仕組みをある程度理解していないと、これが一体どの程度プログラム医療機器にとって追い風の情報なのかがイメージしにくいかと思います。
結論からお話をすると、プログラム医療機器にとっては間違いなくプラスなのですが、もう少し詳しくお話をしていきます。
日本の保険制度の仕組み
「プログラム医療機器が評価療養として実施可能になることがどれ程のメリットなのか」を考えていく上で、まずは最低限の保険制度の仕組みを理解しておく必要がありますのでその辺りからのお話です。
日本の診療には、公的医療保険(国民健康保険や社会保険等)が適用される保険診療と適用されない自由診療の2種類があります。
保険適用とするかどうかは、昨今のサスメドの件でも話題になっていますが、保材専や中医協で安全性と有効性等を科学的根拠に基づいて議論して決められます。
中医協によって、安全性と有効性が認められた場合には保険収載され保険診療となりますが、逆にそれらが認められていない場合は保険収載されずに自由診療となります。
保険診療になれば患者さんは3割負担、自由診療の場合は患者さんが10割負担になりますね。
自由診療が10割負担の理由
保険適用となっている診療は70歳未満の場合、国が7割負担、患者さんが3割負担となっていますが、国の7割負担の原資は皆さんが支払っている社会保険料になります。
そのため、有効性も安全性も良く分からないものにその大切なお金を使う訳にはいかないので、しっかりと有効性や安全性が認められるものに保険点数を付けることになっています。
有効性や安全性がよく分からないものにガンガン皆さんの社会保険料をつぎ込んでしまったら国民から怒られてしまいますからね…
ただ、日本では有効性や安全性が検証されていなくても海外ではその有用性が認められているものもあり、そのような治療を希望する患者さんもいます。
その場合は、患者さんが10割費用を負担することで治療を受けることとなります。
国としては「別にどのような治療を受けるのかは患者さんの自由ですが、費用は負担できませんよ」ということですね。
混合診療の禁止
そして、何より厄介なのが日本では保険診療と自由診療を組み合わせた混合診療については禁止されているという点です。
詳しくは「混合診療はなぜ禁止なのか?保険外併用療養費制度を知る第一歩」の記事で解説をしていますが、ここでは簡単に。
治験業界の新人さんも最初は保険外併用療養費制度の理解でつまずくと思うので、ご参考にどうぞ!
例えば、ある病院で治療を受けた時に保険診療と自由診療を組み合わせた場合には以下のようになります。
混合診療が禁止されているため、本来保険適用となるはずのものも保険適用されずに患者さんの10割負担となってしまいます。
きっとこれを見た時、多くの方は以下のようにすれば良いのでは?と感じると思います。
ところが、実際はそれ程単純ではなく保険診療と自由診療を組み合わせることによって、保険診療の有効性や安全性が担保できないようなパターンも想定されることになってしまいます。
そうなってくると、保険診療の部分について「安全性や有効性が担保できない状態」になってしまっているので「国からお金は出せませんよ」となってしまう訳ですね。
でも実は特例がある(保険外併用療養費制度)
例えば、サスメドの「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」が自由診療となってしまった場合、同時に行っている保険診療までも患者さんの10割負担となってしまうため、患者さんの経済的負担は大きくなってしまいます。
「このアプリを使うと他の検査費用は保険がきかなくなります」と言われたら、「え…じゃあ、使わなくて良いです…」となることも想像できますよね?
先日の記事「【サスメド】不眠障害用アプリの保険適用希望書の取り下げについてのまとめ」で自由診療での展開となった場合には非常に厳しいだろうという意見を出しましたが、その根拠はこの混合診療の問題があったからです。
ただ、自由診療の中には実は評価療養と選定療養という種類のものがあり、これらに限っては部分的に混合診療が特別に認められています。
混合診療が認められるということは、保険診療の部分はしっかりと保険がきくということです。
評価療養
将来的に保険導入のための評価を前提としたもので、先進医療や治験が該当する。
選定療法
通常の医療費に+αの費用を支払うことで快適さを得るなど、患者さんの嗜好によって選択される側面が強いものが該当する。(入院時の個室の使用など)
第582回中医協総会では、第1段階承認を取得したプログラム医療機器及びチャレンジ申請を行うプログラム医療機器は評価療養として実施可能とするとされたので、自由診療の中でも保険外併用療養費制度の中に入ったことになります。
第1段階承認であってもチャレンジ申請であっても保険導入のための評価を前提としていますし、資料にも記載されている通り、プログラム医療機器は一般的に侵襲性が低いことを考えると評価療養に整理されることは合理的だと思います。
前回までは「自由診療での展開となった場合には非常に厳しいだろう」という印象でしたが、自由診療であっても、せめて評価療養として実施可能ということであればその厳しさは軽減されるのではと思っています。
サスメドMed CBT-i 不眠障害用アプリの場合で考えれば、例えばチャレンジ申請を行うプログラム医療機器となった場合にはこの恩恵を受けることになります。
ただ、保険適用されればこの恩恵は関係ないのですが、それはそれでOKですよね!
評価療養として実施できる対象
話は少し戻りますが、今回の「プログラム医療機器についての評価療養の新設」で評価療養として実施可能なパターンをもう少し詳しく見ていきましょう。
第1段階承認を取得したプログラム医療機器
第1段階承認を取得したプログラム医療機器すべてが対象となるというわけではなく、以下の全てを満たすものが対象となります。
- 第1段階承認を取得しているものの保険適用がされていない。
- 申請等を行うことで第2段階承認を取得し、保険適用を目指している。
治験を行って有効性と安全性を検証して薬事承認を取得するまでには数年単位の時間と数億円単位のコストがかかりベンチャー企業の参入障壁が高いという課題があります。
そこで、治験を前提とせずに評価データから一定の有効性が蓋然性をもって確認できる範囲で第1段階承認を行えるようになりました。
第1段階承認取得後は、臨床現場で使用しながら有効性や安全性に関する評価データを製造販売後臨床試験成績やリアルワールドデータ等として収集し、臨床的意のある有効性を示すための臨床評価データが得られた時点で承認事項一部変更承認申請(一変申請)で第2段階承認での取得が可能となっています。
2段階承認については、薬事承認申請のスキームなのでサスメドの今回の件では関係ありませんが、今後のサスメドの開発品目は二段階承認を目指す可能性もあるので知識として知っておいても良いかと思います。
チャレンジ申請を行うプログラム医療機器
チャレンジ申請を行うプログラム医療機器の場合は以下のパターンが対象となります。
- 保険適用されていない範囲における使用に係る有効性に関し、使用成績を踏まえた再評価を目指すもの。
- 使用成績を踏まえた再評価に係る申請前のものについては、再評価のための申請に係る権利の取得の際に付された条件に従って、再評価のための準備に必要と認められる期間に限り実施可能。
- 使用成績を踏まえた再評価に係る申請中のものについては、再評価の申請を行った日から起算して●●日間に限り実施可能。
サスメドがチャレンジ申請を目指すことになった場合には該当してくる可能性があります。
まとめ
今回は、プログラム医療機器のイノベーション促進の観点から評価療養として実施可能となった場合にどのようなメリットがあるのかをご紹介していきました。
混合診療などの仕組みについては、なかなか一般の方にはイメージしにくい部分かと思いますので、当記事の情報が少しでもお役に立てたら嬉しいです。
個人的な感想では今回の件はサスメドMed CBT-i にとってはとても大きなインパクトではありませんでしたが、プログラム医療機器のイノベーション促進という観点からは業界にとってのプラス材料なのではないかと思いました。
どれだけ保険償還されるかが分からなければ売上の見通しを立てるのも難しく、今月の2024年6月期第2四半期の決算でも業績予測は未定となる可能性が高いと思いますが、その他のパイプラインの進捗状況等も気になるところですね。
“【サスメドにも追い風か?】プログラム医療機器が評価療養とされた影響を解説!” への1件のフィードバック