【基礎から学ぶ】治験の精度管理や保守点検記録のお話

CRAやCRCとして治験に携わっていくと必ず関わることになる精度管理や保守点検。

ですが、特に新人の時には認識を誤ってしまったり、あまりイメージを持つことが出来なかったりとつまずいてしまうポイントの1つになっています。

そこで、今回は治験の精度管理について基礎から解説をしていきたいと思います。

のりすのりす

製薬業界でかれこれ10年以上働いています。X(旧Twitter)でのフォロワー数は5,100人程。難しい運用も分かりやすく解説をしていきます!

混同されがちな精度管理記録や保守点検記録

混同されがちな精度管理記録や保守点検記録

新卒や未経験中途でCRA/CRCさんになるとGCPの座学からスタートするかと思いますが、GCPの座学だけではイマイチ理解しにくいポイントがいくつかあり、そのうちの1つが今回お話する「精度管理記録/保守点検記録」のお話です。

以前「これで完璧!治験の保険外併用療養費制度を分かりやすく解説!」の記事でお話をした保険外併用療養費も新人さんがつまずきやすいのですが、「精度管理記録/保守点検記録」のお話も混同してしまう新人さんが多い印象です。

ただ、この辺りの理解が曖昧なまま現場で仕事をしてしまうと施設や依頼者とのトラブルの原因になる上に、治験データの質の低下にも繋がる可能性があるため超重要なお話だったりします。

苦手意識がある新人さんもいるかもしれませんが、「そもそもなぜ精度管理が必要なのか」という本質的なお話などにも触れながらじっくり解説をしていきますので是非ご覧下さい!

のりすのりす

新人さんでこの内容をしっかりと理解していたら、同期との差を着けることも出来ちゃいますよ!

治験のデータとしてあるべき姿

治験のデータとしてあるべき姿

精度管理のお話をするためには、そもそも治験のデータがあるべき姿を知っておく必要があります。

皆さんは治験のデータはどうあるべきだと思いますか?

答えはとてもシンプルで、「信頼できるデータ」である必要があります。

他の表現の仕方もあるかもしれませんが、私が新人さんに教える時には治験では信頼できるデータを取ることが重要で、そのためにGCP等で色々規制がされていたり監査をしたり査察がされていたりしているとお話しています。

のりすのりす

GCP第1条に「この省令は、被験者の人権の保護、安全の保持及び福祉の向上を図り、治験の科学的な質及び成績の信頼性を確保するため~」と記載されていますが、「治験の科学的な質及び成績の信頼性を確保するため」という部分からも分かりますね。

信頼できるデータとは?

では、「信頼できるデータ」とは、より具体的にはどのようなデータのことを指すのでしょうか?

その答えは色々とあるのですが、本記事の趣旨とは少しズレてしまうので今回はそのうちの一部に軽く触れるのみに留めてご紹介をしていきます。

質の高い治験実施計画書に沿って集められたデータ

質の高いデータを得るためには、質の高い治験実施計画書(プロトコル)が必要です。

製薬メーカーの人たちは、添付文書の完成形をイメージしてそこから逆算する形で治験でどのようなデータを収集すれば良いのかを決めていきます。

その他にも、「手順が明確であること」や「バイアスが入りにくい手順にすること」など、質が高いプロトコルに必要な要素は多岐に渡ります。

そのため、ほぼ全ての治験でプロトコル以外に「検体採取に関する手順書」や「EDC入力の手引き」など、各種手順書が存在していたりします。

このように、質が高いプロトコルや手順書を作り込むことが、結果的に質の高いデータを集めることに繋がっているということですね。

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GCP第7条の「治験実施計画書」では、プロトコルに記載しなければいけない最低限の内容が決められていることからもプロトコルが「信頼できるデータ」を取るために重要な位置付けになっていることが分かります。

しっかりとモニタリングがされて収集されたデータ

プロトコルや手順書がしっかりと整備されているだけでOKかというとそういうわけでもありません。

なぜなら、質の高いデータには以下のような要素も必要になってくるためです。

  • プロトコルや手順書をしっかりと守って集められたデータ
  • カルテや検査記録などの原資料との齟齬がないデータ
  • 科学的妥当性があるデータ

ここに書いたのは一例ですが、上記の条件をしっかり満たしているかを確認するためにGCP第21条に「モニタリングの実施」が規定されています。

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まさに、CRAのお仕事の核となる部分ですね。
CRAは質の高いデータを収集するために非常に重要な役割を担っていることになります。

更に監査によって品質が保証されたデータ

さてさて、これで十分かというと実はまだまだ足りません。

なぜなら、モニタリングがしっかりと機能していなかったら質の高いデータになっているかを確認できていないことになるからですね。

なので、「しっかりとモニタリングが機能しているか」を調べる必要があります。

これがGCP第23条で規定されている監査です。

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モニタリングがしっかりと機能しているかは第三者視点で見なければ意味が無いので、GCP第23条では「監査に従事する者は、監査に係る医薬品の開発に係る部門及びモニタリングを担当する部門に属してはならない。」という規定があるわけですね。

質の高い計画を立てて、収集されたデータをしっかりとモニタリングして、更にモニタリングが正常に機能しているかを監査で確認する…と、これだけしっかりと見て治験のデータの品質を担保しているのです。

治験には認証された検査機関のデータが必要

ここまでお話しただけでも治験のデータはガチガチに信頼性が担保されているわけですが、実は他にも信頼性を確保するために規定されていることがあります。

それは…しっかりと精度管理された検査機関のデータを使用することです。

GCP第4条第1項のガイダンスにも以下のように規定されていますね。

治験依頼者は、治験に係る検体等の検査機関(実施医療機関の検査室等を含む。)において、検査が適切に実施されて治験に係るデータが信頼できることを保証するため、当該検査機関における精度管理等を保証する記録等を確認すること。

ここで示されている「精度管理等を保証する記録等」というのが、今回の記事のテーマになっているものですね!

のりすのりす

ただ、1つ注意が!
よーーくガイダンスの文字を見てみて下さい。
「精度管理を保証する記録」となっています。
この「等」というのがあるおかげで、混乱してしまう新人さんがいるわけです。

CRAは、施設の精度管理等を保証する記録等を確認しなければいけない…

精度管理等を保証する記録等…とはなんぞ?といことですね。お話していきましょう。(本題まで長っ!)

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ちなみに、ガイダンスに登場する「治験に係る検体等の検査機関」というのは、今の治験では大体がセントラルラボ(中央検査機関)のことになります。
多くの治験では、LSIメディエンスやBMLなどの検査機関で中央測定をしていますからね。

精度管理の基礎知識とCRAに求められるアクション

精度管理の基礎知識とCRAに求められるアクション

治験の臨床検査等の精度管理については、治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方についてという平成25年のふるーい通知が考え方の根本にあります。

こちらの通知は精度管理の基礎の基礎になるので、必ず確認しておくようにしましょう。(大丈夫!4ページしかないので!!)

さて、それを踏まえた上でこの記事では分かりやすいように噛み砕きながら説明をしていきます。

CRAが確認しなければいけない記録

GCPガイダンスでは「精度管理等を保証する記録等」となっていますが、とりあえず「等」は一度置いておいて、「精度管理を保証する記録」から考えていきましょう。

これはとても簡単で、ISO15189米国病理学会(CAP)などから発行される認定証が該当します。↓はISO15189の認定証です。

ISO15189の認定証

大学病院などの大規模な施設であれば、施設のホームページに掲載されていることも多いので、施設担当になったら予め確認しておくと良いでしょう。

個人的には、鹿児島大学病院の臨床研究管理センターのページがかなりまとまっていて見やすいので勉強におすすめです。

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施設の認定証を確認する時には、「有効期限」がしっかりと治験期間をカバーできているかの確認も忘れずに!
もし、有効期限が切れるタイミングと治験実施期間が被っていたら更新をした認定証の入手も必要です!(失念ポイントなのでご注意を!)

色々な治験を見てきましたが、最低限のラインとして規定されているのがこの認定証の確認なので、新人さんはまずは「施設の精度管理の確認をして下さいと言われたら認定証を確認する」と覚えておくことでOKです。

基本形はこの形です。

ただ、実際のお仕事はそう甘くはなく、色々な例外を臨機応変に対応していかなければいけません。

ここから例外などをお話していきますが、ここまでの基本をしっかりと押さえてから読み進めて下さいね。

例外の説明

基本的には、「精度管理記録の確認と言われたら認定証を確認する」でOKなのですが、やはり例外も存在します。

その例外に対応するために、「精度管理を保証する記録」と「等」が使われていたりします。

どういうことか見ていきましょう。

記録「等」のお話

同時にお話すると混乱するので、まずは「精度管理等を保証する記録」の部分(赤字部分)からいきますね。

「治験における臨床検査等の精度管理に関する基本的考え方」の中でも説明されていますが、米国では1988年に臨床検査室改善法が制定されてヒト検体を扱う全ての検査室は検査精度を確保するため国家基準に基づく認証を取得することが必須になっています。

一方で、日本では臨床検査等の精度管理に関して法制化はされておらず、外部認証の取得も義務づけられていないため、「認定証を取得していない」という状況も有り得る事になります。

GCPガイダンスでは、「確認すべき検査の範囲や具体的な確認方法は、各検査データの当該治験における位置づけ(主要評価項目であるかどうか等)を考慮し、取り決めること」とされており、具体的な確認方法は依頼者が取り決めるとされているため、「絶対に認定証でなければNG」というわけではないことが分かります。

つまり、依頼者が妥当だと考える理由をしっかりと説明できるのであれば認定証以外の確認方法もOKということなので、「精度管理等を保証する記録(認定証)」の確認でもOKとなるわけです。

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とはいえ、この例外的な方法を取るパターンはかなり少なくなってきていると思います。
それに、この例外方法でいくとなると適合性書面調査時にもPMDAに妥当性を説明する必要も出てくるかと思うので、認定証を確認することとする方が無難です…

精度管理「等」のお話

では、次に「精度管理を保証する記録等」の部分(赤字部分)を見ていきましょう。

この「等」の中には、具体的には「校正」や「保守点検」などが入ってきます。

つまり、「しっかりと校正されていることを保証する記録(校正記録)」や「しっかりと保守点検されていることを保証する記録(保守点検記録)」などのことを指していることになります。

さて、いきなり登場した「校正記録」と「保守点検記録」ですが、ここで以下の2つの疑問が出てきます。

  1. どのような場合にそれらが必要になるのか。
  2. どの程度の質が求められているのか。

この疑問について簡単に紹介をしていきます。

校正記録や保守点検記録が必要なパターン

「保守点検記録」や「校正記録」の必要性は、検査項目が治験において重要な位置付けになっているかどうかによって依頼者が判断します。

例えば、降圧剤の治験で主要評価項目が「平均坐位収縮期血圧(msSBP)のベースラインから投与8週時までの変化量」だったとします。

当然この場合は、「血圧の測定値」が非常に重要であることが分かりますね。

そのため、施設にある血圧計を使用して血圧を測定する場合には、その血圧計の精度がしっかりと担保されている必要があります。

精度がしっかりと担保されていることをどのように確認するのかは色々と手段がありますが、例えば、「定期的にしっかりと校正が取られていることを確認する」という方法も考えられます。

このような場合には、校正記録についても確認しておく必要があるということになります。

ちなみに、「保守点検記録」なのか「校正記録」なのか、という部分は「精度がしっかりと担保されている」ということをどのような手段で確認するかの違いです。

依頼者がどちらが適切かを考えた上で判断することになります。

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私がCROにいた頃は、上記の基準で依頼者に保守点検記録や校正記録の確認の要否などを確認していました。
確認が必要そうな試験であるにも関わらず確認指示が出ていないと、後から「やっぱり確認してください」とか言われることもありますからね…

試験としてはあまり多くは無いかもしれませんが、医薬品の治験で治験使用機器が規定されているような治験は要注意です。

なぜなら、治験使用機器はそもそも有効性や安全性評価に影響を及ぼすと考えられる機器が規定されるため、「保守点検記録」や「校正記録」の必要性とリンクしているからです。

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治験使用機器は運用が開始されたばかりで、依頼者もこの辺りを見落とす可能性もありますからね…

また、上の例では血圧の測定値が試験の結果に直結するため、「施設間の使用機器によるバラツキを抑えるために、依頼者が血圧計を用意して貸し出す」というパターンもあります。

貸し出したパターンでも日々の点検記録の要否な等をしっかりと確認しておいた方が良いでしょう。

どの程度の品質が求められているのか

では、「保守点検記録」や「校正記録」はどの程度のレベル感で情報を残さなければいけないのかという疑問についてお話をしていきましょう。

精度管理の通知では以下のように記載されています。

治験において求められる精度管理は、医療機関で通常実施している校正や保守点検のみであっても、その記録が必要時に確認でき、かつ、適切に管理されていれば十分である。

“基本的には”、施設が通常実施している方法でOKということですね。

細かいことを言えば、校正記録1つを取っても、内部で校正を実施する「内部校正」と第三者機関が客観的立場から校正を実施する「外部校正」があったりします。

通知通りであれば、施設がどちらの方法で校正をしていてもOKなはずですが、もし依頼者として指定があるのであればその辺りのことまで考慮する必要があります。

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校正記録が必要な場合には、内部校正でOKなのか、それとも外部校正まで求めるのかは確認しておきたいところですね。

場合によっては、依頼者が校正記録のフォーマットを指定してくる場合もありますが、その場合は逆に施設にそのフォーマットで受入れ可能かを確認する必要性が出てきます。

可能であれば、要件調査時などのなるべく早い段階で施設に受入れの可否を確認しておく方が無難でしょう。

のりすのりす

とはいえ、依頼者が試験開始直前までくれないこともあったりするのがCROにとっては苦しいところですがね…

まとめ

今回は治験の精度管理のお話にスポットを当ててご紹介をしていきました。

この辺りのお話は、研修などもあまり深く触れられないこともあるためか、あまり理解が進まないまま現場に投入されている新人さんをよく見かけます。

しかも、厄介なことにどの程度までの記録が必要なのかはプロジェクトによって異なるため、あまり理解が深まらないまま放置をされていることもあったりします。

何が正しいのかが分からないまま突き進んでしまうと、確認すべき資料や記録を見落としてしまうことに繋がりかねません。

逆に治験での精度管理の本質を知っていれば確認しなければいけない資料の見落としも減らせると思います。

今回お話した内容が少しでも皆さんのお役に立てれば嬉しいです!!