ファイザーの新型コロナワクチンについて臨床開発職の視点からまとめてみた

2020年から世界的にCOVID-19による甚大な被害を被っている中、20201231日の大晦日は東京での感染者数が1,337人となり、2021年に入ってからも感染者数は増加の一途を辿っています。

そのような状況の中、日本ではファイザーとBioNTechにより共同開発されているCovid-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2mRNAワクチン「BNT162b2」が20212月下旬を目処に日本でも接種が開始される見込みと報じられ、注目を集めています。

今回は、「BNT162b2」について、臨床開発職としての視点を交えてまとめていきたいと思います。

BNT162b2の世界での使用状況

BNT162b2の世界での使用状況

2020122日(米国現地時間)に米国ファイザー社のプレスリリースで英国の医薬品医療製品規制当庁(MHRA)により、COVID-19に対するmRNAワクチン(BNT162b2)の緊急使用を許可されたことが発表されました。

その後、20201211日(米国現地時間)の米国ファイザー社のプレスリリースで米国食品医薬品局(FDA)よりアメリカでの緊急使用許可の取得、20201221日には欧州委員会(EU)より条件付き承認(CMA)を取得し、27EU加盟国においてBNT162b2の使用が可能となったことを相次いで発表しています。

その他、バーレーンやカナダ等を含む世界複数の国において、緊急使用許可または承認がされています。

日本では、202114日に開かれた年頭記者会見の場で、菅首相が20211月中に治験のデータをまとめるよう政府から米国ファイザー社に強く要請したことが伝えられ、20212月下旬にワクチン接種が可能となるよう調整していることを明かしました。

通常、医薬品が上市されるまでには治験が実施され、その結果をもって審査され承認される流れですが、現在はCOVID-19により感染が拡大している状況下のため、特例承認が適用されることになる見込みです。

特例承認について

特例承認とは、通常10ヵ月程度かかる承認審査期間を大幅に短縮することを目的に簡略化された手続きで承認をすることが出来る制度です。

特例承認が適用されるには、以下の条件を満たす必要があります。

特例承認が適用される条件テキストが入ります。

疾病のまん延の防止のために緊急で使用が必要な場合
特例承認の対象となる医薬品の使用以外に適切な方法が無い場合
海外で既に販売等が認められている場合

最近では、ギリアドのベクルリー点滴静注液100mg(一般名:レムデシビル)が特例承認の適用により僅か3日の審査期間で承認されました。

審査期間が僅か3日というのは、実際に医薬品開発の現場に携わっている私から見ても驚異的で製薬メーカー、医薬品医療機器総合機構(PMDA)、厚生労働省が寝る間も惜しむほどの努力で達成されたのだろうなと感じました。

BNT162b2の作用機序

BNT162b2の作用機序

ここではなんとなくのイメージを掴んでいただくことが主旨ですので、作用機序に関してもなるべく理解しやすいように簡潔に紹介していきたいと思います。

さて、ファイザー/ BioNTech社により共同で開発されているBNT162b2ですが、このワクチンはmRNAワクチンという新しいタイプのワクチンになります。

大雑把に作用機序を説明していきます。

BNT162b2の作用機序

新型コロナウイルスワクチンに係る 説明資料|ファイザーより抜粋

COVID-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2抗原部分をコードするmRNAを脂質の膜で覆うことによりワクチンを打った人の細胞内に届けます。

“抗原部分を”という部分は重要で、SARS-CoV-2COVID-19の症状を引き起こす遺伝情報の部分は除外しているということです。

もし除外していないと、ワクチンを打ったことでCOVID-19が発症してしまうこともあるということですね。

細胞内には、mRNAの遺伝情報を読み取ってたんぱく質を作り出すリボソームという細胞小器官があり、そのリボソームによって注入されたmRNAの遺伝情報が読み取られ、たんぱく質が作られます(この過程を翻訳と言います)。

このたんぱく質がいわゆる「SARS-CoV-2の抗原」となるわけです。

そして、細胞内で作られたSARS-CoV-2の抗原が細胞外へ放出され、抗体産生と細胞性免疫の両方が誘導されます。

抗体が作られれば、その後はSARS-CoV-2が体内に侵入してきたときにSARS-CoV-2と結合して、SARS-CoV-2の細胞内への侵入を妨害し、結果としてウイルスの増殖を抑制することになります。

BNT162b2の治験

BNT162b2の治験

本記事を執筆している2021年1月7日現在で既に日本を含み世界各国でBNT162b2の治験が行われています。

現時点で行われているBNT162b2の治験について簡単に紹介をしていきます。

国際共同治験 第I/II相

BNT162b1BNT162b2が世界で初めてヒトに投与される試験、いわゆるヒト初回投試験(FIH試験:First in human Trial)がドイツ(BNT162-01)で開始するとのプレスリリースが、2020422日(現地時間)のプレスリリースで発表されました。

その後、米国(C4591001)でも治験が開始され、ドイツと米国の2国で国際共同治験 第I/II相が進められました。

本治験は、1855歳の健常成人によって行われ、BNT162b1BNT162b2の至適用量、安全性そして免疫原性について評価することを目的としており、この後実施される治験計画に必要な情報が集められました。

この時点では、ワクチン候補としてBNT162b1BNT162b22つがありましたが、非臨床試験と臨床試験データに基づき検討した結果、第II/III相の治験では、BNT162b2が使用されることとなりました。

主には以下の基準でBNT162b2が選択されたとのことです。

BNT162b2が選択された理由

様々な動物種において高い中和抗体活性を示し、有益な予防効果を示した。

BNT162b1よりも良好な忍容性プロファイルを示した。

全身反応(発熱、疲労、悪寒など)は軽度または中等度かつ一過性(12日間)で、重篤な有害事象が認められなかった。

上記の結果を受けて、国際共同治験 第II/III相の治験へ駒を進めることになりました。

国際共同治験 第I/II相の治験開始のプレスリリースから第II/III相の治験開始のプレスリリースまでの期間は約3ヵ月だったのですが、これはかなりの早さです。

全ての準備をこの短期間でこなすのは正直、至難の業で関係者のレベルの高さが伺えます。

国際共同治験 第II/III

2020年7月27日(米国現地時間)のプレスリリースで、国際共同治験第II/III相試験の開始が発表されました。

第II/III相試験は、安全性、免疫応答および有効性を確認する目的で、世界152施設(米国:130施設、アルゼンチン:1施設、ブラジル:1施設、南アフリカ:4施設、ドイツ:6施設、トルコ:9施設)で治験が行われ、被験者数も43,448人に上る大規模な試験となりました。

しかし、2020年12月10日(米国現地時間)のプレスリリースで安全性及び有効性の最終結果がThe New England Journal of Medicineの論文に掲載されたと発表され、こちらの結果も、試験開始のプレスリリースから約4ヶ月強と驚異的なスピードでの結果発表に至っています。

有効性についての結果概要

国際共同治験2_3相の試験デザイン

治験に参加した被験者はBNT162b2群とプラセボ群について、それぞれ約半数で割付がされました。

接種時にSARS-CoV-2感染歴のなかった参加者36,523名のうち、2回目接種7日後以降のCOVID-19発症例は170例で、そのうち8例はワクチン群、162例はプラセボ群で発現し、ワクチンの有効率は95.0%[95%信頼区間(CI: 90.3, 97.6)]であったと報告されています。

国際共同治験2_3相の有効性の結果概要

ここで1つ注意が必要なのは、この有効率95%というのは、「ワクチンが95%の人には効果があり、5%の人には効果が無い」ということを意味するものではないことです。

解釈としては、「ワクチンを接種すると、ワクチンを接種しない人と比較するとCOVID-19を発症するリスクが19分の1になる」とする方が良いでしょう。

なお、SARS CoV-2感染歴の有無を問わない参加者で解析をしても、ワクチンの有効率は94.6%(95% CI: 89.9, 97.3)であったとのことで、SARS CoV-2感染歴によっての有効率に差は無いようです。

また、ワクチン接種1回目~2回目の間におけるワクチンの有効率については、52.4%(95% CI: 29.5, 68.4)であったと報告されており、これは、ワクチンの最大の予防効果を発揮するにはワクチンを2回接種する必要があることを示唆しています。

本治験結果を受けて、本ワクチンの2回目の推奨接種タイミングは21~28日とされています。

現況では、より多くの方が1回目のワクチンを接種できるようワクチンの接種期間を推奨接種期間より2~3週間遅らせることが検討されていますが、安全性や有効性に関するデータはありません。

これはあくまで私見ですが、ワクチン接種期間を2~3週間遅らせたとしても、現在までのデータを見る限りさほど結果に変わりは無いのかなという印象です(特に安全性については)。

安全性についての結果概要

忍容性(副反応が起きた時に耐えられるどうかの程度)と安全性プロファイルについては、良好であったと報告されています。

BNT162b2接種後に生じた主な有害事象は、軽度または中等度の注射部位疼痛、疲労、頭痛であり、概ね2日以内に回復する一過性(一時的に症状が出るもの)のものであり、1回目または2回目の接種後に2%以上の頻度で発現した重度(グレード3)の副反応(つまり、BNT162b2と因果関係があると判定された症状)は、疲労(3.8%)と頭痛(2.0%)と発熱(≥38℃、若年者16%、高齢者11%)であったと報告されています。

重篤な有害事象の発現頻度はワクチン群とプラセボ群で同様(0.6%0.5%)であり、COVID-19関連の死亡はなかったとのことです。

上記の結果から、治験段階においては特筆すべき安全性の懸念点が無いことが分かります(長期的な安全性確認はまだ続いています)。

また、「有害事象」や「副反応」など、一般の方にはあまり馴染みの無い用語もありますので、後の章で簡単に説明をしています。

国内第I/II相試験

2020年10月20日のプレスリリースにより、日本で第I/II相の治験を開始したとの発表がありました。

国際共同治験の第I/II相の治験でワクチンの至適用量については探索されていたので、こちらの治験では、安全性、忍容性および免疫原性を評価することを目的に実施されました。

目標症例数は160例で、BNT162b2とプラセボはそれぞれ3:1の割合で割付される治験となります。

日本での治験の結果は、2021年1月29日にファイザー社からPMDA(医薬品医療機器総合機構)に提出され、以下のような経過を辿っています。

日本での経過
2021年1月29日
ファイザー社が日本での治験のデータをPMDAへ提出。
2021年2月7日付近
有効性・安全性に問題無しとPMDAが判断。審査報告書がまとまった。
2021年2月12日
薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で審議され、了承された。
2021年2月14日
厚生労働大臣により正式承認がされた。

2月16日からは、医療従事者から順番にワクチンの接種が開始していきます。

ちなみにですが、治験のデータについては、ワクチン接種後、1年後の安全性についても評価をしているため、今回は全ての治験データが提出されてわけではありません。

残りのデータについては、今後、データがまとまり次第PMDAに報告されることになります。

有害事象と副作用と副反応

有害事象と副反応の違い

最近では、医薬品開発のニュースも多くなってきていますが、その中で使われている「有害事象」、「副作用」、「副反応」について簡単に触れておきます。

細かいことを言い出すとキリが無いので、ここでは分かりやすさ重視でザックリとした説明に留めます。

正式な定義が知りたい場合は、GCPの第2条に定義が書いてあるので、そちらをご確認下さい。

有害事象

何だか難しい名前の言葉ですが、要するにワクチンを打った後に発生したあらゆる臨床上好ましくない症状のこと等を指します。

この時点では、ワクチンが原因で起こったことなのか(つまり、因果関係があるのか)については関係ありません。

ワクチンを打った後に、気分が悪くなったというのも有害事象ですし、ワクチンを打った後に人にぶつかって階段から落ちて骨折した場合も有害事象となります。

「有害事象」というと、何となくワクチンのせいで起こったような印象を持っている方もいるかと思いますが、必ずしもワクチンが原因ではないということですね。

副作用

これは3つの言葉の中でも皆さんが一番馴染み深い言葉かと思います。

「副作用」は、「有害事象」のうち、医薬品以外の明確な理由が分からない症状に対して使う言葉です。

「ある医薬品を服用後に、気分が悪くなった」という症状が出た場合、その医薬品以外に何か「気分が悪くなった」という理由があるかどうかが論点になってきます。

いつも通り生活していたにも関わらず、医薬品を服用した後に気分が悪くなったのであれば、それは医薬品によって引き起こされた可能性があるため、「副作用」と医師が判断をします。

もう1つの例の「医薬品を服用した後に人にぶつかって階段から落ちて骨折した」という場合は、人とぶつかったことが原因で階段から落ちて骨折したことが分かるため、これは明らかに医薬品が原因ではないと医師判断がされ、「副作用ではない」とされます。

“医薬品以外の明確な原因があるか”というのが副作用であるかどうかの基準です。

副反応

一般的な医薬品で使用されている「副作用」というのは、病気を治療するための主作用(高血圧の薬だったら血圧を下げる等)以外の作用のことを指します。

これと似たような考えで、ワクチンの場合は、主作用(SARS-CoV-2の免疫を高める等)以外の反応のことを「副反応」と言います。

わざわざ「反応」と言っているのも、ワクチン接種によって発熱反応やワクチン接種部位の炎症反応などがあるからなのでしょうね。

有名どころでの「副反応」には、アナフィラキシーショック等もあります。

まとめると

よくニュースやメディアでも誤った使い方がされていますので、この辺りは一般の方はかなり混乱してしまう部分かもしれません(医薬品開発に関わっている方はバッチリだと思いますが)。

特に、「有害事象」という言葉を聞くと「副反応」のことと勘違いすることが多いかと思います。

「副反応」は、ワクチンとの因果関係があると判断されているもので、「有害事象」はワクチンとの因果関係が無いものも含まれているということさえ覚えていれば良いかと思います。

「副反応」と「副作用」もよく混同して使われていますが、解釈にはさほど大きな乖離は出ないと思います。

また、大事なことをもう1つ。

副作用が1つも無い医薬品や副反応が1つも無いワクチンはこの世にありません。

なので、ニュース等を見る際には、副反応などがあったかどうかよりも、その重大性や頻度までしっかりと確認することをおすすめします。

現時点で得られているBNT162b2の情報

治験の結果については、ファイザー社によるプレスリリース時点の情報と関連論文を参照して記載していきましたが、プレスリリース後の情報で、アナフィラキシーショックや死亡例についてのニュースも報道されています。

アナフィラキシーショックについては、米国食品医薬品局(FDA)と米国疾病予防管理センター(CDC)が共同で運営しているワクチンの有害事象報告システム(VAERS)に20201214日から23日間に21例の報告があったようです。

ただ、21例中17例はアレルギーまたはアレルギー反応の既往歴があり、ワクチン投与から症状発症までの中央値は13分とのことで、個人的な見解ではありますが、ある程度コントロールが効く程度なのかなという印象です。

というのも、アナフィラキシーガイドラインによると、アナフィラキシー症状の転帰については、94.9%が回復または軽快であり、この割合から判断しても、アナフィラキシー発現後に適切な処置が出来れば問題となる可能性が低いと思ったからです。

過去にアレルギーがあったかの問診である程度アナフィラキシーのリスクが高い方を除外できますし、万が一、アナフィラキシーが発現したとしても発症までの中央値が13分以内であることから、早期段階での処置が可能と思われます。

死亡例については、ワクチンとの因果関係がどのように判定されるかいうところですが、こちらも万が一因果関係ありで副反応と判定された場合にも、その頻度にしっかりと注目をしていく必要があるかと思います。

今後情報が集積されていき解析をすることで評価されていきますが、現時点では何とも言えないのではないでしょうか。

まとめ

ファイザーの新型コロナワクチンについて臨床開発職の視点からまとめてみた_Thank you

ここまで、ファイザー/ BioNTechの新型コロナワクチン(BNT162b2)のお話をしてきましたが、1人の医薬品開発者(BNT162b2の開発者ではないですよ!)として思うところを少し。

治験に関しては、まだ進行中で今後は長期の有効性、安全性を確認していくフェーズに入りますが、治験の立案から結果の取りまとめまでの期間は驚異的な早さと言えます。

これは、治験に協力をして下さっているボランティアの方々を始め、規制当局、医療機関、CRO、治験薬の配送会社、検査機関、製薬メーカーなどの様々な立場の関係者が一丸となって成しえていることだと思います。

治験は時として、“人体実験”や“闇バイト”のように言われてしまうことがありますが、業界関係者は、治験に協力いただける方の人権を最優先に考え、サイエンスに基づいて真剣に医薬品開発に取り組んでいます。

治験は、医薬品開発には欠かせないもので、今回のようなパンデミックの状況を解決するのにもやはり治験は必須です。

今回の件を機に、一人でも多くの方に治験の大切さを知ってもらえたら嬉しいです。

そして最後になにより大切なこと。

治験にご協力いただいている世界の皆様のおかげでこの世界が救われるかもしれません。

ご協力いただきまして、大変感謝しています。

そして、私はそのご協力が無駄にならないように全力で頑張っていきます。

参考文献

1. プレスリリース2020 | ファイザー

2. Fernando P. Polack M.D. et al.” Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine” The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, 383, 2020, 2603-2615

3. ファイザー 新型コロナウイルスワクチンに係る説明資料 -mRNAワクチンについて

4. jRCT | 臨床研究実施計画・研究概要公開システム

5. 第1回新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会資料 | 厚生労働省

6. COVID-19ワクチンに関する提言 第1 | 一般社団法人日本感染症学会 ワクチン委員会

7. VAERS|Centers for Disease Control and Prevention

8. アナフィラキシーガイドライン